2 / 25
第2話
「Sur, I feel bad, but we're full today(大変申し訳ありませんが、本日は満席でして)」
1958年の6月13日。
25歳のメルキオール・ガルビーノJr.が唯一、メルキオール・ガルビーノJr.から李龍へ戻れる場所。
マッカーシーはカウンターが7席のみという狭いバーだった。そのバーにはバーテンダー1人と李龍がいて、狭いながらもゆったりとバーボンを口にしている。
「あ、そうなんだ。That's a shame. I 'll come buck.(それは残念。また寄りますね) 」
李より後から来た男は李が座らないだろう6席の占領にも文句は言わず、一瞬、母国語を呟く。
そして、愛想良く笑って店を去ろうとする。入店を断ったバーテンダーも笑顔で、男を見送ろうとする。
だが、李はバーボンの氷をカランと立たさせて、言った。
「ヘイ、同じもので良いかい?」
何の気まぐれかはバーテンダーや男は勿論、李にさえも分からなかったが、それが李と日本人の男が初めて酒を飲んだ時のことだった。
ともだちにシェアしよう!