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第4話
「美人だって言われねぇ? おめぇさん」
本来であれば、職業や趣味に当たりをつけて話し出すころだろうが、名前を言うのでさえ、バーでは無粋だと避けた。
となると、最初に会話のネタになるのは容姿くらいしかない。
李はバーボンを飲み続けると、バーテンダーにポテトを揚げるようにオーダーした。
「美人って喜ぶところなんでしょうか? 私が女性なら喜ぶところなんでしょうけど」
「ああ、喜ぶとこ。喜ぶとこ。まぁ、野郎に言ったのは初めてだが、色も白くて、どこかのブルーブラッドみてぇだ」
ブルーブラッド。
所謂、貴族や名門の出の人間のことだが、日焼け等を一切していなくて、青い血管が白い肌へ浮き上がっていることから「青い血」と言われている。
「そんな、貴族なんて……まぁ、当たらずとも遠からずですけど」
「ん?」
どっしりと、かつ、優しげな相槌。
メルキオールとしての彼を知る者なら極めて恐ろしい「それ」なのだが、男は動じることなく、言ってのける。
「私、本当はなりたいものがあったんです」
「なりてぇもん?」
「えぇ、家には秘密で美容師に弟子入りしたり、俳優学校へ行ったり、1時間だけだったけど、やーさんの舎弟になったり。でも、結局、父の家業を継がさるえなくなって」
「やーさん?」
「ああ、ジャパニーズマフィアのことですよ。でも、ただ、そのまま家業を継いで終わりなんて、つまらないですよね? だから、徹底的にやることに」
徹底的にやる。
と決めたとて、意思のみで、事業を拡大させ、日本から海を越える。そして、この広大で、実力主義を美徳だとする国で成功することはできない。
男の口振りからすると、ある程度、男の父に当たる運営していた会社が大企業である可能性はあった。
だが、それにしても、優しげな容姿に似合わず、豪胆というか、随分と優秀で、負けん気の強い人間だった。
しかも、三下とは言え、ジャパニーズマフィアについていたこともかなりぶっ飛んだ人物像として李には写っていた。
「昔、日本から来た人に聞いた「ブショー」ってヤツみてぇだ。オダに、トヨトミと……」
「徳川ですか? まぁ、天下人には敵わないですけど、私の名前も武将からつけられたんですよ」
名乗りましょうか、と男は笑うと、李も笑う。
「いや、無粋だ」
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