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第7話
「恋?」
思わぬ慶喜の言葉に、李龍は思わず聞き返す。
「そう、恋です。何年、経っても、忘れられぬと胸を焦がす人。息をするにも苦しくて、その人を思うと、思わず泣いてしまう人」
慶喜の口から次々と出てくる言葉。
出会ったばかりで、まだ完全にどんな人間かはまだ分かりかねるが、とても慶喜から出てくるものとは李龍には思えなかった。
「さぁてな、おめぇさんのご想像に任せるさ」
李龍がまた酒を喉の奥へと流し込む。
切り返し方としては粋ではない。無粋も無粋だが、李龍は言い澱んでしまった。
「成程。今まで、そんな相手に巡り会えなかったか、いらっしゃったけど、口の外には出せない方だったか……」
慶喜は話を途切らせず、バーテンダーに会釈して、グラスを渡す。バーテンダーの手で酒が注がれると、グラスは再び慶喜の手に戻っていく。
何でもない、瞬きか余所見でもすれば見逃してしまうくらい短い所作。
だが、洗練された流れが意識を奪わっていくように美しくて、李龍はただ慶喜を見る。
「そう言うおめぇさんはどうなんだ?」
「え……」
慶喜は酒の入ったグラスをカウンターへ置くと、今後は李龍が口を開く。
「人に恋をしたことがあるか、なんて聞くのはそんなに幾つも理由はあるとは思えねぇ。自分はしたことがないが、知らないといけなくなってしまった時。誰かに聞くように命令された時……」
「聞いている相手に恋をした時、もですね」
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