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第8話

「Boss(ボス)?」  慶喜と2度目の再会を果たした、李龍ことメルキオール・ガルビーノJr.は翌日、執務室で部下に声をかけられる。  部下の用向きは主に、先代のボスから受け継いだ売春宿の件と最近、立ち上げたカジノ経営のことだった。その現在の状況や敵対するファミリーの動きなんかも報告される。  すると、ガルビーノJr.は慶喜のことなど、まるで考えていなかったような態度で、部下からの報告に対して指示を出す。  部下がガルビーノJr.の指示を受けると、執務室はガルビーノJr.1人になり、静かになった。 「『聞いている相手に恋をした時』……」  李龍は呟くと、珈琲を口に運ぶ。  つまり、慶喜が李龍に恋をしたから聞いた……ということになるのだが、慶喜がそんなことを言う筈もなく……。 『実は、知り合いの女性に言われましてね』  慶喜の話によると、知り合いの女性というのはこの国でも3本の指に入る資産家の令嬢であるという。 『彼女はまだ16歳で、恋愛は私には意味のないものだと言った。確かに彼女が恋愛や色恋の為に生きることは難しいでしょう。私はしたことはないのですが、彼女は賢い故に、恋を……いや、夢を見ることや生きること自体さえ諦めている』  慶喜はからりと氷の音を立てて、酒を口にする。バーテンダーが酒を注ごうとすると、慶喜の口は酒ではなく、チェイサーを頼む。 『柄にもなくですが、気の毒に思うのです。彼女の道行きを』  慶喜はチェイサーを飲み干して、ラストオーダーの酒を飲む。  自分の人生の半分程しか生きていない者に対する慈悲のような笑顔。向けられる人はおそらく……  ガルビーノJr.は新聞を広げる。  そこにはこの国で3本の指に入る資産家の次女と日系の大企業の代表取締役が婚約したという記事が書かれていて、オフェット氏とオフェット嬢、黒木の写真も一面を飾っていた。 『The Engagement of Miss Charlotte Camilla Auffet to Mr. Yoshinobu Kuroki (シャーロット・カミラ・オフェット嬢と黒木慶喜氏が婚約)』

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