9 / 25
第9話
「今日はもう来ない、か……」
今日の分の仕事が終わり、李龍はバー・マッカーシーへ向かった。
そして、ゆっくりとしたペースで酒を飲んでいく。
特に慶喜へ言いたいことがある訳ではない。ただ、無性に慶喜に会いたくなったのだ。
「まぁ、用意とか色々、あるだろうしな……」
慶喜が結婚するのはシャーロット嬢が18歳になる日。
まだ1年と半年先だが、2年もない。
それに、オフェット家はただの資産家ではない。この国、いや、世界の資産家ランキングでも常に上位に位置している。準備も入念に行われるだろうし、披露宴は歴史上から見ても、盛大で豪華なものになるのも予想がつく。
「A refill.(ああ、もらう)」
バーテンダーの勧めるままに酒を飲んでいく。
李龍の飲み方は非常に静かで、やけ酒のような荒っぽさはない。
純度の高いバーボン。咽喉が焼けつきそうなのに、それ以上に胸が焼けついて、焦げていくような感覚が李龍を攻め立てる。
そして、李龍はある人の名前を呟いた。
ともだちにシェアしよう!