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第10話
李龍がまだ15歳の時、彼に女の全てを教えた女がいた。
マフィアの情婦ながら、国の要人やマフィアをも手玉にとり、時に男達を廃人にし、時に組織を壊滅に追い込んだとされる傾国の美女。
女の名は多嘉子(たかこ)と言い、日本から来た女だった。
「……」
李龍が初めて、多嘉子と出会った時。
彼女は李龍へ何か気の利いた挨拶や言葉をかけた訳ではなかった。ただ、李龍を真っ直ぐ見て、不敵な笑みを浮かべる。彼の手をとり、ベッドルームで裸になってみせたという。
「あ……」
その日、その日、食うにも雨風を凌ぐことにも困っていた少年が本能だけで男になった。
それだけの力が彼女にはあった。
「まるで、毒の、毒のような花だった」
李龍は彼女と言葉を交わす為に、彼女の国の、彼女の話す言葉を学んだ。その彼女が李龍の元から去ってからも、ずっと……
「色恋なんて言葉じゃ不足だ」
李龍は最後の1杯を飲み干すと、席を立ち、バー・マッカーシーを後にした。
何故か、日本人だという以外は共通点はなさそうな慶喜を思いながら、ガルビーノ家のボス・メルキオール・ガルビーノJr.に戻っていった。
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