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第12話

 メルキオール・ガルビーノJr.がケンと呼んでいた人物はガルビーノJr.の執務室へものの10分で来た。 「まだ2月だけど、今年だけで5件。少し多すぎじゃない? しかも、僕は」 「医師であって、葬儀屋さんじゃない。だろ? ケン先生?」  ガルビーノJr.が呼んだ男の名前は石田謙太郎(いしだけんたろう)。  現在はケネス・マイヤーズという名前で、ガルビーノ家が勢力を奮っている区画の貧しい市民にタダ同然に医療を提供する男であり、ガルビーノJr.と共に幼少期を過ごした男でもある。 「仕方ねぇだろ? 俺を亡き者にする為にくるんだ。正当防衛だ、正当防衛」 「……まぁ、貰えるものを貰えるのなら、死亡診断書だって書くし、致命傷の誤魔化しなんかもするけどさ」  本来であれば、ガルビーノJr.の執務室のある建物の敷地外に遺体さえ捨ててしまえば、ガルビーノJr.が逮捕されることはなく、捜査の手さえ及ばない。  ましてや、マフィアの内部対立での死人など、殺人事件として扱われるような時代ではなかった。  しかも、ガルビーノJr.がレスターを亡き者にしたのはレスターが銃口を向けてきたからだ。 「レスは俺を1度殺ろうとはしたが、それ以上に俺を支え、ポモドーロやプッタネスカとの抗争でもファミリーの盾になっていた。人並で良い。それなりに葬ってやってくれ」  ガルビーノJr.はケンことケネスに告げると、ケネスは溜息をつく。 「昔から不器用だよね、李龍。本当は誰よりも慈悲深い。The most benevolent mafia in the world.(世界で1番慈悲深いマフィア )」 「ははっ、Save your breath.(うるせぇよ)あ、それと、レスの件とは違うが、もう1つ、頼みがある……ある人間にメッセージを送りたい」

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