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第16話

1972年の5月、ある1人の男がこの世を去った。 彼は表向きは市民と正義の味方ではあったが、マフィアに強請られ、マフィアを黙認していたという。 だが、ある下っ端マフィアの裏切りや彼の死により、ビッグアップルのマフィアは次々と壊滅状態に追い込まれていく。 「君の言う通りになったな」 と、カウンター席が僅かしかない、場末のバー・マッカーシーに声が響く。 声の主はケネス・マイヤーズこと石田謙太郎で、10年程前にこの辺りの区画で医師をしていた若者だった。 『マフィアの黄金期はもう20年も続かない』ととある元マフィアのボスは13年も前に予言し、自身のファミリーを2年前に解散した。 そのマフィアは泣く子どころか、屈強な男達も黙ってつき従うビッグアップルの巨大ファミリー・ガルビーノ一家だった。 「Did I? (そうだったか?)もう忘れたな」 石田がビールを飲む傍ら、男は笑う。 男の名前は李龍。かつて、ガルビーノ一家を率いていたボス・メルキオール・ガルビーノJr.だった。 「おいおい、まだ40にもなってないのに、随分と年寄りみたいな言い分だな」 12年前には20代だった青年達は今日、39歳になる。 今日……6月13日は李龍と石田がとある孤児院に引き取られた日だった。 「本当の誕生日なんて知らないけど、おめでとう。李龍」 李龍達がいた孤児院は大孤児院で、他の孤児院にはない1日3食の食事とオルガン、優しい司祭やシスター達がいる、かなり豊かで恵まれた場所だった。 「李龍があのおっかないおっさん達に連れて行かれた時は驚いたけど、こいつも一緒なら行っても良いって言ってくれたから今があるんだろうな」 普段、クールで拝金主義の印象の強い石田がこんな風に語っているのを見ると、かなり酔っているのだろうか。 確かに、孤児院を出る時に李龍は石田を連れていくように言った。それは、何も石田の為を思ってのことだけではない。 「裏社会に行くんだ。治療や遺体の処理する医者はできれば昔からよく知っているヤツが良い、と思っただけさ」 幼い頃から李龍も石田も優秀で、5歳以上の子が梃子摺る勉強を難なくこなしていた。それに、恵まれた孤児院で過ごす子にはない野心や先見の明もあった。 『You and I can be huge.(君と僕ならでかいことができる)』 と石田ことケン少年はよく李龍に言っていたという。

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