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第17話

「ところで、この店、最後の夜なんだろ? 本当に僕が相手で良かったのか?」 石田は流石に飲み過ぎたと感じたのか、ビールでは水を頼むと、飲む。暫くすると、酔いが引いたのか、そんなことを言ってくる。 石田の言う通り、このビッグアップルの片隅にひっそり立つ小さなバーはこの日で店仕舞いだった。 「Haven't you got good sence?(相変わらず、野暮な野郎だ)」 「えー、僕、日本語しか分かりません!」 「……」 石田は今度は水ではなく、ビールを頼むと、半分くらいを飲み干す。 計算なのか、演技なのか、李龍は考えるのも面倒で石田の頼んでいたビールと同じものをバーテンダーに頼む。 本当は共に過ごしたかった人間はいる。 ファミリーを解体した時に正妻だったダリアとも離婚したのだが、ダリアについていった息子のバルタザールとガスパール。(ただ、2人は14歳と13歳でまだ未成年) 母親似の美人になった血の繋がらない娘・ロージー。 それに、今は気軽に会えなくなった傾国の美人の多嘉子や若くして亡くなったロージーの母であるヴァイオレット。沢山の死線を潜ってきた信頼し、時に愛を傾けた仲間達。 「彼は? ほら、K氏。ここで会ったんだろ?」 石田は半分茶化すように、黒木慶喜の名前を出す。 確かに、黒木慶喜と李龍はこの店で出会った。この店で出会い、彼に心を奪われた。 「……」 確かに慶喜には会いたい。 だが、実際に会うのは李龍にしては珍しく躊躇われた。というのも、彼はもう既婚者になってしまった……からではない。 「K氏とA嬢は離婚して10年になるらしいじゃないか」 そう、黒木慶喜とシャーロット・カミラ・オフェットは3年の結婚生活の末、別れてしまったのだ。

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