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第19話
「When? When did Mr. Myers die?(いつ? いつ、マイヤーズ氏は亡くなられたんですか?)」
元・マッカーシーの店主であり、バーテンダーのベリーニは珍しく驚いたような声を上げる。
李龍がメルキオール・ガルビーノJr.時代からマッカーシー、つまり、ベリーニの店を贔屓にして、20年程が立つが、初めてのことだった。
「It was three days after that day...McCarthy was closing permanently.(あの日から3日後だった…あのマッカーシーが閉まった日だ)」
ベリーニは長年、7席しかないビッグアップルの場末のバー・マッカーシーを職場にしていたが、李龍のかつての部下・カールトンが経営者をする3つ星ホテルに雇われて、新たな門出を迎えたばかりだった。
3つ星ホテルのラウンジにはビッグアップルの夜景が広がり、椅子やカウンター、什器に至るまで最高のクオリティーのもので統一されている。
何気なく、ベリーニは新しいバーに来てくれた古い馴染みの客である李龍に「またマイヤーズ氏と来てくださいよ」と言い、李龍は「それは無理な申し出だ」と笑った。
「Why? Did he...?(何故? 彼は……?)」
ベリーニは李龍の酒の用意をしながら、聞く。
いや、酒の用意をし出したのは言葉を発した後で、彼は何かに弾かれたように指先を動かした。
「With a gun. He was suicide.(銃で死んだ。自殺だった)」
実は石田はかつて李龍が擬似家族のように接していた女性・ヴァイオレットと再婚していた。結婚し、ガルビーノ家の解体も決まり、石田の生活拠点は自身の診療所やマッカーシーのある地区からヴァイオレット達の家のある地区へと移った。
そして、結婚する前から病を患っていたヴァイオレットを看取り、石田がロージーを引き取ったのだが、石田がマッカーシーに行った翌夜、ロージーは何者かに犯されて、遺体となっていたという。
「Shoot the criminals and himself...(犯人を始末して、自分も……)」
貧困層にも良心的な医療を提供し、富裕層には破格の医療を提供する、ガルビーノ家のお抱え医師でもあった石田は昔のコネやネタ、使えるものを全て使い、警察よりも早くロージーを強姦し、命を奪った男達を見つけ、黄金期のマフィアさながらの報復劇を演じた。
多少は堅気の医師から逸脱したところもあった彼だが、彼はマフィアではなく、医師だった。
「たった1人で、自分を含めて11人の射殺。そんなに血塗れじゃあ天国にいるだろうお姫様方に会うことはできないかもな」
淡々と語る李龍も、内心は悪い夢でも見ているようだった。
だが、どんなに信じがたくとも事実だった。
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