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第22話

「If you have a little rest...(少し休まれた方が……)」 商談相手には弱ったところを見せられないが、ガルビーノ家にいた頃から懇意にしていたトム・カールトンや名前を借りたチャールズ・コリンズ、ジョゼフ・マルティーニには言われた。 確かに休んだ方が良いのかも知れないが、いくら酒を飲んでも、良い女と一晩を過ごしても、彼が満たされることはなかった。 『何故、イタリアに?』 あの日。カールトンの経営するホテルで元・マッカーシーの店主・ベリーニの作る酒を飲んでいた日……突然、カールトンと慶喜は現れた。 慶喜は10年前と同じく品の良い笑みを浮かべると、李龍に1通の封筒を渡してきた。 封筒……の中身は2週間後の日付が入った航空券のようで、ローマ行きのチケットだった。 『貴方と行きたい……それで理由にはなりませんか?』 慶喜は笑みを崩さずに言うと、ベリーニに酒を注文する。失礼します、とカールトンは静かに去り、ベリーニは慶喜に注文された酒を用意する。 その流れるような一連の光景は李龍の意思を無視して上映される映画のようだった。 『それで理由になるか……って……』 なるか、ならないかで答えるとするなら、理由にはならないだろう。 だが、こんな状況で無理矢理、仕事をし続けても、いつかは支障をきたすだけだった。

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