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子猫の恋 1

 美しい青年達が男に夢を見せる場所、李紹苑(りしょうえん)は、都内の高層ビルの中に人知れず存在する。  無論、ビルの表に李紹苑の文字はない。その存在を知るのは、関係者と、顧客となる一部の富裕層のみである。  李紹苑のキャストの第一条件は、客が本当の恋人と錯覚するほど濃密で甘いセックスができること、その次が容姿に優れていることで、彼らが客に提供するのはただの性的快感ではなく、愛し愛されて憩う時間だった。  キャストは客に抱かれて──稀に逆のこともある──まるで本当に愛しい人に愛撫されているかのように身体を火照らせ、快感に身を震わせて射精し、ときにはドライオーガズムを迎えるのだ。  店の事務所の一画にはモニタールームがあり、そこでは客室の映像を見ることができた。  ここで注視されるのはキャストの仕事ぶりよりも、むしろ客の行動だった。  店にとって、客は誠心誠意接待すべき存在ではあったが、キャストはそれ以上に宝である。大事なキャストの身体を傷付けるような行為は御法度、見つけ次第即座に踏み込んで対処する構えがあったし、キャストはそのことを知っているから、より安心して客に身体を預けることができる。  李紹苑のキャストは、ただ若く美しければよいというものではない。セックスを楽しみ、悦び、それを客と共有できる者でなければならなかった。おいそれと替えが利くものではない。  キャストを愛し、かつ相応の金を払える経済的余裕のある者だけが会員になることができたし、彼らを満足させられる者だけがここに集められているのだ。  モニターの中では、キングサイズのベッドの上に組み敷かれ、今まさに男に貫かれているキャストがいた。  小柄なせいで、男が覆いかぶさるとすっかり身体が隠れてしまい、白く細い足が宙を蹴る様だけが見えるのが、かえってなまめかしく淫靡だった。 『ああっ……あぁっすきっ……きもちいいよぉ……』  スピーカーからは甘い声が響いてくる。抱かれる悦びに濡れたその声は、男が腰を振るとさらに高く上ずった。 『あっあっ……やあんっ……』  体位が変わって、キャストの姿がカメラに晒された。細い腰が太く赤黒い男性器で責められている。まるで手酷く虐げられているような映像だったが、そうではないことを音声が示していた。 『あぁんっ! だめ、ぼくそれされたらイッちゃう……やだぁっ知ってるくせに……いじわる……!』  男を煽る甘い声と、切なげな喘ぎが混じり合う。快感の高まりを表すように、細い身体がびくびくと痙攣した。 『悠己(ゆうき)……悠己っ』  男の熱を帯びた声がした。彼ももう悠己を指名して何度目だろう。  悠己は十代半ばといっても充分通じるほど幼さの残る顔立ちをしているが、つい先日二十歳になったばかりだ。  彼はこの店に入っていくらも経たずに、ランキング上位の常連になった。本人が自分で『セックスの才能がある』と言うほどセックスが好きで、相手をその気にさせるのもうまかったし、サービス精神も旺盛だった。  その上一度抱けば忘れられなくなる身体をしていて、甘えてくる可愛さと、奉仕する健気さ、そして程よいわがままで男の気を引き、数多の男が彼の虜になっていた。  ──あいつには天職だよなぁ。  モニターを眺めていたチーフスタッフの達成(たつなり)は、しみじみと思う。  達成はこの店の裏方で、現場の運営を担当していた。客の前に姿を見せることはなく、もっぱら施設運営とキャストの管理を行う地味な仕事だ。  けれど、キャストの精神面も含めてケアをし、常に万全の状態で客を楽しませる屋台骨でもある。  ふと、別のモニターから声がして、達成はそちらに目を向けた。客は常連だが、相手をするのは彼とは初対面のキャストだ。  達成の意識は悠己から逸れ、彼の甘い甘い悲鳴も達成の注意を引くことはなかった。

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