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子猫の恋 2

 じゅぷ、じゅぷとしゃぶりつく水音が静かなホテルの一室に響いていた。  ベッドの上で、達成の脚の間に顔を埋めているのは悠己だ。器用に舌と喉と唇を使って、達成のペニスを愛撫してくれている。 「う……」  思わず声が漏れて、達成は息をついた。当然だが悠己は上手い。放っておいたら、指と口だけで全部搾り取られてしまう。 「……悠己、もういいよ」  達成は言って、悠己の肩を押した。悠己はまるで名残惜しいように、達成のペニスにちゅ、ちゅ、と口づけて、ようやく身を起こす。  達成がゴムを取って封を切ろうとすると、悠己はあからさまに不満そうな顔をした。 「えー、ゴムするのぉ?」 「するに決まってるだろ。フェラは譲歩しただろうが」  ほんとはフェラも生はだめなんだからな、と達成が言うと、悠己は見るからにしゅんとして呟いた。 「達成さんの理性強すぎぃ……全然おれに落ちてくれない……」  充分落ちてるだろうが、と思いながら、達成はさっさとゴムを着ける。そしてうなだれている悠己に向かって腕を伸ばしてやると、悠己は嬉しそうに腕の中に飛び込んできた。  ホテルの一室、李紹苑の売れっ子キャストと、運営チーフ。  これはもちろん仕事ではなかったし、遊びでもなければ、禁断の仲でもなかった。  李紹苑には大事なルールがいくつかあるが、実は職場恋愛も客とキャストの恋愛も禁止されてはいなかった。  理由は実に合理的なもので、禁止すると隠れて付き合う者が必ず発生するからだ。  そしてそういう場合、露見したときには手の施しようがないほど事態がこじれていたりする。  だから、恋愛をしてもいいから隠すな、というのが店のスタンスである。  揉めて損失を出すくらいなら、関係を容認して行動を把握する方が経営上も運営上もずっとよかった。  そして、達成と悠己もまたそういう関係だ。  達成としては、キャストに手を出す気など毛頭なかった。魅力的ではあったけれど、皆美しすぎて華やかで、住む世界が違うようにも思えていた。  だから、今こうしているのはもっぱら悠己の根気強いアプローチの結果である。  達成さん、達成さんと懐っこく周りをちょろちょろして、二人の時間を持ちたがり、やがて彼らしくないほど緊張した、思いつめた声で想いを告げられた。  達成は悠己に対する好意は自覚していたものの、チーフスタッフという肩書きからなかなか踏み出せず、こうなるまでにずいぶん悠己を待たせたと思う。今にして思えばもっと早く思い切ってしまってもよかったのにと思うが、それも過ぎたことだ。  後から聞くと、悠己は、達成が悠己の仕事を理由に関係を拒むようならすっぱり諦めるつもりだったそうだ。セックスが好きなのも、仕事が楽しいのも本当だから、それを受け入れてもらえなければどうあがいても無理だと思ったらしい。  達成はそれがまったく気にならなかったと言えば嘘になるが、悠己が店に入ってきたときから彼をずっと見てきたし、彼が仕事とプライベートを分ける分別があることは知っていた。  そして、悠己が達成を見る目の真剣さも、すぐにわかった。  客に向けるそれとは違う、様々な感情を含んで熱を帯びた真っ直ぐな瞳。  そんな目で見つめられ続けて、達成は根負けしたのだ。  達成がためらったのは、運営チーフという立場が一番の理由だったが、すでに三十路に差しかかった己からすると、悠己はあまりにも若く、その上見た目は年齢以上にずっと幼くて、妙な罪悪感に囚われてもいたのだ。  それを言うと、達成さんが若ければ若いほどいいっていう人だったらもっと簡単だったのに、と、よくわからない悔しがり方をされた。  ともあれ、今は達成も悠己を恋人だと思っているし、悠己もそれを喜んでくれている。今日だって、達成の休みの日にわざわざ自分の休みを合わせて、半月前からホテルデートをねだられていたのだ。  男達に夢を売る悠己は、人目のある場所で大っぴらに恋人と過ごすことはできない。だからどこのホテルに行ってみたいだとか、達成の自宅で何をしてみたいだとか、あれこれ考えてはねだったりせがんだりして甘えてくる。  それが達成の目には健気にも見えたし、達成との時間が一番ほしいのだとわかるから、そういうわがままはなるべく聞いてやりたかった。   

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