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子猫の恋 3

 悠己はセックスが大好きだ。それは仕事ぶりを見ていたらわかる。  男に抱かれるのが好きで、尻にペニスを挿入されて突かれる快感に、いつも目を潤ませて酔っている。  そういう経験豊富な悠己と違って、達成は何もかもが人並みだった。恋愛をしたこともセックスをしたこともあったが、ただそういうこともあったというだけである。  だから正直、悠己を満足させられるとはとても思えなかったし、そのことで不満を抱かれるのではないかという不安は、少なからずあった。  ──全部杞憂だったんだけどな。  いざ悠己と関係を持って、達成は彼のことをこんなにも知らなかったのかと驚いた。勝手に知った気でいたけれど、職場では見せない、恋人にしか見せない彼の顔は、達成にはとても新鮮な驚きだった。  当たり前だが、セックスに慣れた悠己の身体は、いつもごく簡単に達成を受け入れた。挿入に困難が伴ったことは一度もなかったし、それでいてその内側は達成の身も心も酔わせるほどに具合が良かった。  いつもなら──仕事で客の相手をしているときの悠己なら、挿入されると甘く誘う声で鳴いて、すぐにピストンの快感に浸るところだったが、達成が相手となると、彼はすっかり様子が違った。  成人男性としては小さな悠己の身体をベッドに横たえ、脚を割り開いて男の味をよく知ったそこにペニスをあてがい、押しつけると、悠己の一見して小さな入り口は簡単に達成を飲み込んでしまう。根元まで全部飲ませても痛がったり苦しがる気配がないので気が楽だったが、いざ動こうとすると、ほとんどいつも、泣きそうな声で、待って、と言われた。 「ま、待って……達成さん……」  は、は、と浅い息をしながら、悠己は切なげに眉を寄せて、繋がったままキスや抱擁をねだってきた。  もちろんキスなんていくらでもするし、腕に収まる身体を抱き締めるのは悠己を独り占めするような気持ちがして大好きだった。けれど、腰を遣おうとするのを止められるのはどういうわけなのかさっぱりわからず、本人に理由を聞くしかなかった。  問われると、悠己は恥ずかしそうに睫毛を震わせ、蚊の鳴くような声で言った。 「う、動いたら、感じちゃうから、だめ……」  それを最初に聞いたとき、達成は目眩がしそうだった。  これがあの、大勢の男達をその身体で夢中にさせて、彼らとの性交の快感に愉悦の声を上げている悠己と同じ人間なのか、と思った。  挿れたからにはずっとそのままというわけにはいかないので、悠己をあやすようにキスを繰り返しながら腰を遣うと、悠己はひどく切ない声を漏らして身をよじり、心細さに耐えきれなくなった子どものように達成にすがりついてきた。  客の男が相手なら、甘い声で卑猥な言葉を言って煽ってみせたり、誘うような手つきや舌遣いで男を悦ばせてみせるくせに、達成にすがる手は震えていたし、漏れる喘ぎは今にも涙声にならんばかりだった。  だが、いくら普段と違おうが、悠己の身体が男を夢中にさせるそれであることは変わりなかったし、耳元で切ない喘ぎを漏らされるのはそれは蠱惑的だった。  だから達成もたまらなくて、悠己の温かく絡んで吸い付いてくる内側を擦り上げて、奥を突いて、細い身体を揺さぶると、悠己は耐えかねたように涙声で訴えてきた。 「だめ……! 達成さんおねがい、もぉ突かないで……!」  なんで、どうした、と驚いて訊いたと思う。悠己は震えて、涙をこぼして、首を振った。 「おれ、イッちゃう……だめ、やだ…………」  達成の腕の中で、悠己は、イキたくない、と言って涙をぽろぽろこぼし始めた。  達成はわけがわからなくて、悠己を抱き締めながらあやそうとして、でも抜こうとしても感じやすい悠己は身を震わせるので、そうこうしているうちに結局悠己は泣きながら果ててしまった。  なかなか泣きやまない悠己をなだめ、髪を撫でて何度もキスをして、腕の中に抱き込んで、そしてやっと達成は、自分が悠己の、初めての恋人であることを知った。 「……昔、好きかな、みたいな人はいたけど、達成さんみたいに、ほんとに大好きになって付き合った人いなかったし……そんな好きな人とセックスしたこともなかったから、なんか気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃって……泣いたりして……ごめん…………」  恥じ入ったように悠己は言ったが、謝りたいのは達成の方だった。勝手に経験豊富だと思い込んで、悠己の気持ちの大きさに気付かなかった。 「でもあの、イヤだったんじゃなくて、達成さんが抱いてくれたのが嬉しくて……嬉しすぎて……だから……」  悠己は一生懸命な様子で言って、泣き腫らした目で達成を見上げてこう言った。 「だから……おれのことまた、抱いてくれる……?」

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