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子猫の恋 4

 わかったのは、達成の恋人はとんだ小悪魔で、可愛くて、達成のことが好きでたまらないということだった。  あれから何度も身体を重ねたのに、悠己はやはり達成が相手のときは、最中に愛撫をされたり、奥を突かれるだけですぐに泣きそうになったし、イクのはいつも嫌がった。達成をもっと感じていたいからイキたくない、イッたら感じすぎてつらくなるからやだ、と駄々をこねた。  そんな可愛いことを言われて我慢していられるほど達成も枯れてはいなかったし、やだやだと泣きながら、どうしようもなく気持ちよくなって果ててしまう悠己の姿は正直たまらなかった。愛しくて可愛くて、抱かずにはいられなかった。  あぐらをかいた膝の上に悠己を乗せて、そのまま腰を上げさせて挿入する。いつも簡単に奥まで飲んでしまうくせに、ひどく切なそうな顔をして甘い吐息をつくのが好きだった。  激しく責められたりイクことは嫌がるくせに、挿入するときはいつも従順で拒まないのも不可思議で、愛らしい小動物を見ているようで面白かった。 「達成さん……」  すっかり根元まで達成のペニスを飲み込んで、悠己は熱っぽい声で達成を呼んだ。その声だけで、達成は快感が増すのを感じずにはおれない。  悠己はひどく愛しそうな手つきで達成の頬に触れ、耳をなぞって、唇を合わせてきた。それに応えながら、細い腰を抱き寄せると、んん、とくぐもった声が漏れる。  テクニックだとか、経験だとかつまらないことを考えていた自分が馬鹿馬鹿しくなるほど、悠己は達成の腕の中では、ただただ達成だけを求めてきた。抱き締めてキスをしてほしい、名前を呼んで、肌に触れて、髪を撫でて、見つめてほしい。それだけだった。  あんなにセックスが好きだと、気持ちいいことが好きだと言っていたくせに、と指摘すると、悠己は唇を尖らせて、達成さんに抱かれて気持ちよくないはずがないじゃん、と言い返してきた。  硬くなった達成のペニスを飲まされるだけで、達成が自分に欲情してくれていることがわかってたまらないのだと悠己は言った。達成の指や唇が肌に触れるとき、その触れ方の優しさで愛されていることが伝わってきて、気持ちよくて仕方がないのだと。  それだけでもう充分に感じているのに、その上弱い部分を突かれたり、擦られたり、いじり回されてはたまったものではないのだそうだ。  職場での彼とはまったく別人のようで、達成は今でもその落差に笑ってしまいそうになる。あまりにおとなしいので借りてきた猫を抱いてるようだと思うこともあった。  ただしこの猫は大変な甘えたで、達成にしがみついて離れたがらないし、ちょっと揺さぶるだけで高い声で鳴いて文句を言うので、自分にしか懐かないわがままな子猫かもしれないとも思う。  子猫のつんと立った乳首が目の前にあるので、つい引き寄せられて口に含むと、子猫は驚いたように鳴いて、達成を引きはがそうと肩を押してきた。それを下から突き上げる動きでおとなしくさせて、乳首を舌で舐め転がしながら揺すってやると、子猫は震えて、消え入りそうな声で鳴いた。 「なんだ、もう泣きそうか?」  顔を覗き込もうとすると、悠己は涙に濡れた瞳で見返してきた。 「達成さん……いじわる……」  その声がもう涙声なので、達成は苦笑してしまう。 「めちゃくちゃ優しくしてやってるだろ?」 「……でも、感じすぎるの、やだ……」  達成は悠己の髪を撫でてやる。その手に自分からすり寄ってくる仕草がたまらなく愛らしかった。 「お前、いつか俺が我慢できなくなって、がっついてくる客みたいな抱き方したらどうなるんだ?」  悠己は眉を下げてふるふると首を振った。そして達成の首に抱きついてくる。 「……おれ、達成さんにそんなことされたら丸一日は歩けなくなっちゃうから、責任取って……」  何の責任だよ、とは訊けなかった。  こんなに感じやすくて、最高に具合の良い可愛い恋人を得て、声が嗄れるほど泣かせてイカせて、何も出なくなるまで責めてめちゃくちゃにやりたい気持ちはいつだってある。何ならそういうふうにしている客がうらやましくなる瞬間だって、ないわけじゃない。  それでも今はまだ、達成さん、と呼ばれてすがられて、キスと抱擁をねだられるとどうしても甘やかしてしまう。切ない声で、だいすき、と囁かれて、涙をいっぱいに浮かべた瞳で見つめられると、優しくしてやりたくなってしまう。  いつかもっとこいつが馴れて、可愛げのない生意気な猫になる日が来たら、そのときは心置きなく鳴かせてやろうと思いながら、達成は愛しい恋人の身体を両腕でしっかりと抱き締めた。

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