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初めてのお仕事 3
「あ〜いいお湯だった〜」
そう言ってベッドに身を投げ出すと、くすくすと紘弥の笑い声がした。
見ると、紘弥はグラスに水を注いでいる。
「お水、飲みますか?」
「ありがと……」
浩一は答えて、身体を起こす。光沢のあるガウンをまとった紘弥は、とたんに夜の気配がした。胸元や足の素肌が覗くのが、息を飲むほど魅惑的だった。
紘弥はベッドの上に座って、浩一が空けたグラスをサイドテーブルに置いてくれる。その表情や仕草は、さっきまでと、会ったばかりの彼と何も変わりないのに、今しがた浴室で見た美しい身体が目の前にあり、その身体に触れてもいいのかと思うと、何だか急に心臓が存在を主張し始めた。
手を伸ばして、その顔に触れてみても、紘弥はやはり微笑んで浩一を見ていた。金銭の対価でこんな特権を得てよいものだろうか、と、そんなことを思って浩一は戸惑う。
そんな浩一の戸惑いが伝わったのか、紘弥はおもむろに身を乗り出して、触れるだけの口づけをしてきた。
「…………バレた? 俺が緊張してるの……」
そう言うと、紘弥ははにかみながら目を細めた。
「おれも緊張してます……」
そう言う声音も、表情も、何もかもたまらなく可愛かった。これが恋人だったなら、抱き締めて朝まで絶対離さないのに、と思った。
「……君がすごく綺麗で……可愛いから、ほんとに触っていいのかなって思って」
紘弥は眉を下げてくすくすと笑った。
「大げさ過ぎますよ、浩一さん、ここに来たの今日が初めてじゃないでしょう」
それは確かにそうだった。以前来たときも、とても綺麗な青年が相手をしてくれて、素晴らしい時間を過ごしたと思う。
けれど、こんな躊躇いや戸惑いは覚えなかったはずだった。
「……紘弥くん、触っても平気?」
往生際悪くそう訊くと、紘弥は微笑んで、はい、と言った。
手を伸ばして頬に触れ、目許を撫で、耳を指先でなぞると、紘弥はわずかに目を伏せる。それだけの仕草がたまらなく色っぽくて、そっと顔を上げさせて唇に口づけた。
やわらかくて、温かくて、唇を合わせるだけでこんなに気持ちがよかっただろうかと思った。唇でついばむようにすると、紘弥もまた応えてくれる。それがとても嬉しかった。
そうしているうちに、紘弥の舌先が唇に触れた。誘われているのか、甘えられているのか、どちらでも嬉しいと思って、紘弥の背中を抱き寄せながら口づけを深くしていく。紘弥の両手が背中に回されて、ゆっくりと指先が這うのが、あまりに心地よくて酔ってしまいそうだった。
長いキスを終えて顔を離すと、紘弥の色の薄い瞳も熱を帯びていた。この可愛い人を気持ちよくしてあげたい、満たしてあげたいと思わずにはいられなかった。
「……ねえ、紘弥くん」
「はい」
目を合わせたまま、すぐに返事が返ってくる。そんな当たり前のことに胸がくすぐられた。
「君がしてほしいこと……教えてくれないかな。君の好きなことをしてあげたい……」
紘弥は一瞬目を丸くして、笑った。
「浩一さん、サービス満点ですね」
紳士ぶっていると思われただろうか、と思ったが、むしろわがままをこらえきれないような気持ちだった。
「君が何でもさせてくれるのは知ってるけど、ちょっとでもイヤなことしたくないなって思って……君が気持ちよくなれること、教えてほしい」
紘弥は浩一の目を見て、はにかみ、遠慮がちな声色で言った。
「……浩一さんにしてほしいこと、言っていいんですか?」
「うん」
「なんか……おれ、してもらってばっかりになっちゃう……」
浩一は首を振った。
「紘弥くんが俺のそばにいてくれて、こうして触らせてくれるだけで、おつりがくるぐらい嬉しいから、紘弥くんが気持ちよくて、ちょっとでも幸せになれること、させてほしい」
紘弥は浩一を見つめて、おそらく少し躊躇った後、口を開いた。
「……たくさん、キスして、たくさん、触ってほしいです」
浩一は瞬き、くしゃりと笑った。
「ただの俺のご褒美になっちゃうな」
ふふ、と紘弥も笑う。その笑顔にひどく胸が温まって、また唇を合わせながら、ガウンの合わせから手を入れると、滑りのよい生地はそれだけで紘弥の肌を露わにした。
たまらなく触り心地のよい肌を撫でて、抱き寄せ、ゆっくりとベッドに押し倒す。紘弥は何も逆らわずに、浩一の首に腕を絡めてきた。
──夢みたいだな。
彼を愛せると思うだけで、胸が苦しいほどに幸せだった。
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