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初めてのお仕事 5

 紘弥の汗ばんだ身体を抱き締めると、その胸がどくどくと強く打っているのがわかって、この身体が自分の指でこうなったのだと思うだけでたまらなく満たされるものがあった。  笑顔の可愛らしい人懐っこい青年の顔と、快感に耐え切れずに切ない声を漏らす顔と、そのどちらもが浩一の心を絡め取るようで、浩一は紘弥に溺れようとしている己を自覚する。  自分はこんなに駄目な大人だったろうか、と思う気持ちもあったが、彼に触れて溺れないなんて嘘だとも思った。  腕の中の紘弥の呼吸が落ち着いてきて、どんな言葉をかければいいんだろうと考えているうちに、紘弥がまた浩一の唇に口づけてきた。  その顔を見返すと、紘弥ははにかんだ笑みを浮かべていた。 「ごめんなさい……おればっかりしてもらっちゃって……」  恐縮したような声音に、浩一は慌てる。 「えっ、いや、違うよ、俺がしたかったから……その、ちょっと無理矢理だったかなって思ったぐらいで……」  浩一の言い訳に、くすくす、と紘弥は笑った。 「めちゃくちゃ優しかったですよ?」  その声も、笑顔も、ただただ可愛らしく思えて、浩一は言葉に迷う。 「……俺……優しくできてた?」 「はい」  穏やかで、歯切れのいい、耳に快い声でそう言われると、もう何も言えなかった。浩一は紘弥の頬を手の平で包んで、ゆっくりと口づける。紘弥が浩一の首に腕を絡めてきたので、安心してその唇を味わった。 「……浩一さんも、おれで気持ちよくなってほしいです……」  甘えるような、誘うような、理性を揺らがす声でそんなことを言われて、浩一は息を飲む。  紘弥の目はじっと浩一を見つめていて、返事を待っているように思われた。  浩一は紘弥の身体を撫で、その腰に手を当てて、躊躇いがちに口を開く。 「……紘弥くんの中に、入ってもいい?」  紘弥は微笑む。両手で浩一の顔を挟むようにして、囁くように言った。 「はい……浩一さんを全部おれにください……」  その言葉は、どんな愛の告白よりも甘かった。  もうお互いの立場も関係もどうでもよくて、この美しく可愛い人に尽くして一緒に溶けてしまいたかった。  紘弥は手を伸ばしてゴムの個包装を取ると、端を切って中身をくわえ、そのまま身を屈めて唇と指で丁寧に浩一のペニスにゴムをつけてくれた。  普通ならそれはとてもエロチックな行為のはずだったが、性的な興奮よりも紘弥がそうしてくれたことが無性に嬉しく感じられて、浩一は紘弥を抱き締めずにはいられなかった。 「……浩一さん、いっぱい抱き締めてくれますね」 「うん……紘弥くんがすごく可愛いから……」  理由にもならないことを言った、と思ったが、紘弥は目許を染めて幸せそうに微笑んでいた。それを見て、浩一もまた嬉しくなる。  自分がしてあげたいと思ったことが、紘弥にとって心地よいことだったなら、そんなに喜ばしいことはなかった。  浩一はまた紘弥の唇にキスをして、その身体をベッドに寝かせる。さっき果てたばかりの紘弥のペニスがまた兆し始めていて、彼の身体も自分を欲しがってくれているのかと思うと、早く愛してやりたかった。  潤滑用のゼリーを取って、手の中で温めて、紘弥の奥まった部分に塗りつけながら指を入れた。そこは何の抵抗もなく指先を飲んだが、紘弥は小さく声を漏らして肩を震わせる。感じやすいのだと思うとますます愛しくて、たっぷりとゼリーを塗って含ませた。 「紘弥くん……」  きっと彼は浩一が多少乱暴に犯しても、抵抗せずに耐えてくれるのだろうと思った。だからあえて言葉にする。 「約束して……? 痛かったり嫌だったりしたら絶対教えてくれるって」  紘弥は一瞬戸惑ったようだった。浩一はもう一度身を乗り出して、赤い唇にキスをする。 「お願い、君をうんと気持ちよくしたい」  目を見て言うと、紘弥はその瞳を揺るがせて、わかりました、と吐息のような声で言った。それがひどく健気に思えて、浩一は笑いかけて髪を撫でてやる。  紘弥の脚を押し上げて、ペニスの先端をあてがうと、紘弥はそれだけで切なそうな顔をした。少しでも安心させてやりたくて、浩一は紘弥の膝に口づける。 「……大丈夫?」  訊くと、紘弥は微笑んでみせた。  こんなに優しくて可愛い子を抱いたことはないな、と思いながら、ゆっくりと腰を押し付けると、わずかな抵抗の後、紘弥の身体は熱く柔らかく浩一を包んで飲み込んでしまった。 「んっ……!」  紘弥はきゅっと目をつぶり、その感覚に耐えた後、うっすらと目を開けて浩一を見上げてきた。 「浩……一、さん」  名前を呼ばないでほしい、とはとても言えなかった。紘弥の中はまるで浩一を待ちかねていたように吸い付いてきて、浩一もその感覚に耐えるので精一杯だった。  快感の波をやり過ごして、紘弥の手が伸ばされたのに気付き、その手を絡め取ってシーツに押し付けた。 「……つらくない?」  訊くと、紘弥はやはり微笑んで、熱を含んだ声で、はい、と答えた。  

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