20 / 38
名前がなくても愛してる 4
抱き合うことが本当に心地よくて、離すのが惜しいと思いながら、紘弥の手が腕にかかったのを感じて、浩一は愛しい身体を解放した。
見上げてくる紘弥は微笑んでいたけれど、どこか泣きそうな顔にも見えて、浩一の心を騒がせた。
「おれ……浩一さんのこと大好きです。浩一さんの喜ぶこと、何でもしたい……」
浩一は微笑む。その言葉だけで充分すぎると言いたかったけれど、それを我慢して紘弥の頬を両手で包んだ。
「それ……俺も君に同じことを思ってるんだけど、どうしたらいいかな」
紘弥は一瞬驚きの色を浮かべて、そして花が開くように笑った。
「浩一さん……おれを甘やかす天才ですね」
おかしそうに言うのが可愛くて、浩一もつられて笑いながら、紘弥の額に唇を当てる。
「そう? ……だったら嬉しいなあ」
とても幸せな気分で、緊張も解けていくのが感じられた。紘弥がそばにいることに緊張していたはずなのに、その彼と抱き締め合っただけで、気持ちがほぐれて心が温まった。
ひどく満足感を覚えている自分を感じながら、浩一は紘弥の目を覗く。彼の望んでいることを全部叶えてやりたかったし、求められるものはすべて差し出してしまいたかった。
「紘弥くん……これは俺のわがままなんだけど……このあとどうしたいか教えてもらってもいい?」
その問いかけで、紘弥の目が熱を帯びた気がした。光をよく含む明るい瞳だ。この目が濡れるといっそう美しいことを知っている。
「……それって……、浩一さん的にはすごいわがままですね……」
「うん……だめかな?」
紘弥は小さく首を振る。髪が揺れて光を弾くのが魔法のように綺麗だと思った。
「……おれのこと、嫌いにならないって約束してくれたら、教えます」
浩一は笑う。紘弥が甘えてくれるのが嬉しくて、甘やかせることが楽しく幸せだった。
「ならないよ。約束する」
紘弥は目を細めて、浩一の唇に触れるだけのキスをしてきた。そして秘密を告白するような声で、浩一の都合のよい夢のようなことを囁いてきた。
「おれ……浩一さんとまたセックスしたかったんです。浩一さんが真面目な顔で話があるって言ったとき、今日はえっちできないって話だったらやだなって思いました……。……おれのこと、抱いてください……」
浩一は言葉も出なくて、魅入られたようにただ紘弥の目を見ていた。
「……おれに、欲情してくれます……?」
その問いに返事はもはや必要がないものだと思って、浩一は紘弥の身体をベッドに押し倒す。その脚に自分の熱を押し付けると、紘弥は微笑んで口づけをねだってきた。
口づけて、それを深くしていく間に、紘弥の雄も硬くなっていくのがわかった。欲しがってくれていることがとても嬉しくて、キスをしながら温かい身体を愛撫する。布地の中に手を入れて素肌に触れただけで、ん、と声を漏らすのが愛しさを募らせた。
唇を離せば、紘弥の瞳はもう潤んでいて、この目が蕩けるまで愛してやりたくてたまらなくなった。
「……どんなふうにされたい? 俺、君が気持ちよくなってくれるなら何でもするよ……」
頬を包んで撫ぜながらそう言うと、紘弥は幸せそうに微笑んで、浩一の手に指を絡めてきた。
「いっぱい……触って、浩一さんの感触、おれの身体にたくさん残してください……」
目眩がしそうに蠱惑的な言葉を囁かれて、浩一はそれに従うほかなかった。
紘弥の首を撫で、耳を甘噛みし、鎖骨をなぞって肩を抱き寄せ、腕の内側の皮膚の薄い部分を唇と舌でくすぐって、彼の纏っていた薄い布を剥いでいく。うつ伏せにして美しい曲線を描く背筋を指先で撫でると、紘弥の身体が大きく震えた。
「……背中、弱い……?」
訊くと、目許の色づきつつある紘弥の目が浩一を見た。
「……弱い、ですけど……好きにしてください……」
紘弥が何か言う度に、浩一の熱は煽られてつらいぐらいだった。
恋しくてならなかった身体が目の前にあって、愛しい人が自分を求めて何もかも受け止めようとしてくれている。そんな現実が信じがたくて、それでも確かに触れて感じられる存在に、かしずくような気持ちで愛撫し続けた。
紘弥の身体はやはり感じやすくて、何をしても反応を返してくれた。特に甘い声を漏らす部分は丹念に愛して、時には震える身体をなだめるように抱き締めて口づけた。
粘膜にほとんど触れないうちから、紘弥のペニスの先に蜜のような透明な液体がにじんでいるのに気付いて、浩一はひどく嬉しくなる。卑猥な行為をしているという感覚は微塵もなくて、純粋にただ紘弥の心と身体が愛しかった。
ともだちにシェアしよう!