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年下の男の子 2
「堅いんだよっ!」
居住スペースのリビングで、直純はスマホを握り締めて言った。
しかしそれを聞いていた悠己 は、直純の激昂をよそに、頬杖をついて間延びした調子で返す。
「すごいねー、そんな高校生いるんだねー」
「それは僕も思うけどさぁ、だからって高校生と付き合える?」
「でも連絡先交換したんでしょ?」
問われて、直純は不服そうに唇を尖らせた。
「だって押し強いんだもん……。何言っても諦めません! の一点張りだし……」
悠己は小皿の上のピスタチオの殻を指先で転がして、横目に直純を見た。
「ほんとに諦めないならアリじゃない? もう18で春に卒業で四大に進学するんでしょ? 何よりさぁ、この仕事に引かないの貴重だよ」
直純も悠己も、いわば高級男娼だ。男を誘い、甘え、性行為をするのが仕事だったが、それはプライベートの恋愛においては障害になりやすかった。
「もしほんとに仕事のことでつまんない文句言ってこない子なら、むしろチャンスなんじゃない? 直純的に」
直純は黙り込む。恋愛をしたいという欲求はさして強くなかったが、仮の恋人を演じる毎日に、自分の本当の恋人はいつできるのだろうと考える瞬間はあった。
「……まあ、絶対ないとは思ってないけど……」
「直純年上好きなんだっけ?」
「だってー、可愛がられたいじゃん! 年下とかなんか逆に気ぃ遣うよ」
「そんなの相手によるんじゃない? ていうかほんとに連絡先交換しただけなの?」
「……どういう意味」
訊き返されて、悠己は意味深に微笑んだ。
「セックスの相性は大事じゃない?」
直純は目を泳がせる。悠己とは何かと価値観が似通っていて、互いに考えも行動も理解しやすかった。
「……向こう制服で指定の鞄で大荷物だったんだもん」
言い訳のように言うと、悠己は楽しげににやにやと笑った。チェシャ猫みたいだな、と直純は思う。
「てことは? また会うんだ?」
「…………堅そーだったから断るんじゃないかなって思ったのにあっさりだったよぉ。もうわけわかんないあの子!」
「堅いったって健康な18歳男子だったらそりゃ断らないんじゃん?」
「『セックスするなら会ってもいいよ』って言ったんだよ!? 普通ちょっとくらい引かない? あんな爽やかな笑顔でハイって言える神経わかんない!」
あははは、と悠己はわざとらしく笑ってみせた。
「直純に普通とか神経がどうとか言われたくないんじゃないかなー。いいじゃん高校生ちんぽ食べちゃえば」
他人事だと思って、と直純は悠己を睨んだが、逆の立場なら自分も同じように言うような気がした。
セックスの相性が大事なのはもちろんだし、性行為でわかることは多い。特に男同士では嘘をつけない部分がたくさんあった。直純も悠己もその辺りの経験は人一倍豊富だ。
「正直直純に年下の彼氏ができたら展開が超楽しみだから期待してるね」
悠己は天使のような微笑みで、そんなことを言った。
「もー! 本音はそれでしょ!?」
直純がテーブルを叩いても、悠己はへらへらと笑っているばかりだった。
愁征少年と再会したのは翌週だった。
結局彼はこの日まで直純の返事の有無にかかわらず、毎日LINEを送ってきたし、直純の気持ちやプライベートをあれこれ訊くこともしなかった。
送られてくるのは彼の日常の断片と、今日の再会が楽しみだということばかりで、直純は毒気を抜かれるような気持ちだった。
ホテルに行くからなるべく大人っぽい服装で来るようにと伝えていたが、待ち合わせ場所にいた愁征は、なんであれば直純よりも年上に見えるのではないかと思われた。
背が高くて、精悍な顔立ちをしていて、制服のそれとは生地も仕立ても違う黒のパンツがスタイルの良さを際立たせていた。
「直純さん」
直純が声をかけるより早く、愁征の方が直純を見て笑顔になった。
「ありがとうございます。来てくれて嬉しいです」
いかにも真面目そうな声音でそう言われると、うまく茶化すこともできなかった。本当なら、君に会いに来たんじゃなくてセックスしに来ただけだよ、ぐらいのことは言ってやりたかったのに、実際には目線を外しただけだった。
「あー……お腹空いてたりする? 平気?」
直純が訊くと、愁征は笑顔で、大丈夫です、と答えた。躾のいい大型犬のようだと思いながら、身長差のおかげで直純が見上げない限り視線が合うことはないのが有り難かった。
「じゃ、ホテル行こっか」
あえてそっけなく言った直純に、愁征はやはり戸惑いを感じさせない声で、はい、と言った。
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