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年下の男の子 3

 人目が気になるわけでもなかったが、直純はいつもより足早にホテルに向かい、愁征が何か言うより早く部屋のパネルを選んで、エレベーターに乗った。  部屋に入ると、愁征はそこでやっとはにかんだように眉を下げて言った。 「ラブホってこんななんですね。俺初めて来たんで……直純さんに全部お任せですみません」  直純は荷物を放り、上着を脱ぎながら愁征を見た。 「ラブホ来たことないんだ? もしかして童貞だったりする?」  愁征は珍しくうろたえる顔をして、いや、と言った。 「……男の人は初めてですけど……童貞ではないです」  ふうん、と直純は呟く。歳に似合わず堅苦しいところはあるけれど、女が放っておくようには見えなかった。だから愁征の返事は意外でも何でもなく、むしろ何故それで直純とこんな所まで来たのだろう、ということの方がよほど疑問だった。 「別に気にしなくていいよ。童貞でも何でも、ちんこさえ勃つなら」  わざと情緒も何もない言い方をしてみたが、愁征は少しばかり目を丸くしただけで、そこには嫌悪らしきものは感じられなかった。つくづくわからないな、と直純は思う。 「僕先にシャワー使っていい?」 「あ、はい」  直純は愁征の横を抜けてバスルームに向かった。服を脱いでいる間も、シャワーを浴びている間も、自分はいったい何をしているんだろう、という気がしたし、愁征のことはやはり何もわからないと思った。  ホテルのバスローブに袖を通して部屋に戻ると、愁征はソファに座ってスマホを見つめていた。 「シャワー空いたよ。どうぞ」  声をかけると、愁征は直純を見て一瞬声を失ったような表情を見せ、そしてすぐに立ち上がった。 「じゃあ、俺も入ってきます。すぐ済ませますんで」 「いーよ。ごゆっくり」  高校生で、18歳で、付き合ってもいない好きな相手とホテルに二人きりになって、あまりにも落ち着きすぎていやしないかと思っていたが、愁征が今しがた見せた表情は恋する若者のそれで、直純は余計に混乱してしまう。  愁征が自分を騙しているとは思わないし、大きな嘘や隠し事があるようにも思えなかった。けれど彼が何を思い、何を考えて今ここにいるのか直純にはさっぱりわからない。ついこの間出会ったばかりなのだから、わからなくて当然なのかもしれなかったが、それにしても座りが悪かった。  直純はベッドに上がって、持参したローションを枕元に置いて、スプリングの上に身体を投げ出した。  セックスをしようと言えば、そしてホテルに連れてくれば、もっと愁征の動揺が見られると思ったのに。あわよくばそこからもっと本音を引き出せるやもと思ったのに、これでは直純の方が動揺しているようで癪だった。  その上、ここまで来てしまうと、愁征はどんなセックスをするのだろうと、期待するように考えてしまっている自分もいた。  ──全然良くなかったら振っちゃお。  そう考えてみても、それはあまり自分の心に説得力を持たなかった。 「お待たせしました」  愁征の声に、直純は顔を上げる。そして不覚にもぎょっとした。 「な、なんでバスローブ着てこないのさ」  愁征は腰にタオルを巻いただけの姿で、濡れ髪も湿った肌も、何よりその大きな骨格と筋肉が直純の目にはひどく性的に映った。 「え、あ、大して変わりないかなと思ったんですけど、まずかったですか」  ベッドの脇まで来て、愁征は戸惑う顔を見せたが、直純の戸惑いの方がはるかに深かった。  まだ若くて未完成な部分があるとはいえ、愁征の身体は今でも充分魅力的だったし、何より10年後20年後を思うと、直純にとってそれは理想的なほどに『抱かれたい身体』になるように思われて仕方なかった。 「い、いいよ別に、……どうせ脱ぐんだし」  目を逸らしながらそう言うと、愁征はほっとした顔をして、ベッドの端に腰を下ろした。 「あの……今さらですけど、俺……男の人の経験なくて、直純さんのこと満足させられないと思うんですけど、それってやっぱり心証悪いですか」  子どものくせに難しい言葉使って、と思いながら、直純は膝を抱く。 「君に満足させてもらおうとか思ってないから大丈夫だよ。……それよりなんでそんなに平気そうにしてるの」 「平気?」 「経験なかったら、普通もっとガチガチに緊張しちゃうもんだけど」  直純の言葉に、愁征ははにかみながら笑った。とたん、その顔の印象が柔らかくなって、年相応に見えた気がした。 「緊張は……もともとあんまりしない方で……それに緊張しててもそう見えないらしいんで。でも今は、全然余裕ないですよ」 「……嘘だぁ」  上目遣いになって直純が言うと、愁征は目を細めて言った。 「目の前に直純さんがいるんで、直純さんのことしか考えられなくて、いっぱいいっぱいです」

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