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恋という名前 5

 浩一が手を伸ばしてきて、頬に触れられ、そこから耳を撫でてうなじに手を回されて、それが心地よくて紘弥は目を細めた。この手に触れられて、身を預けるときはいつも嬉しくてならなかった。 「……君と二人きりになると、だめだな。なんか、変なくせになっちゃってる……」  困ったように、照れくさそうに浩一が言って、紘弥は目を瞬いた。 「何がですか?」  問い返すと、浩一はいよいよ照れ笑いを浮かべて言った。 「だって、君と会うといつも抱かせてもらってたから……」  紘弥は浩一を見上げて、その膝に両手を置いた。 「浩一さんが抱いてくれるんなら、俺、嬉しいです」 「ちょ……誘惑しないでよ……」 「……やっぱり、お仕事に障ります?」  浩一は目を泳がせて、頭を掻いた。 「……俺はいいけど、君を帰せなくなっちゃうよ」 「俺は……明日の昼までに戻れれば……」  浩一は眉を下げて紘弥を見つめ、それからくしゃりと笑ってみせた。 「こんなに君に弱い男でいいの?」  その言い方がおかしくて、紘弥もつい笑ってしまった。 「そんなの、何がだめなんですか?」  くすくすと笑い合って、幸せが胸をくすぐるのがたまらず、紘弥は不意に泣きそうになる。それがわかったわけでもないだろうに、浩一の温かい指が紘弥の目許に触れた。 「……俺と付き合ってください」  まだ笑みの残った、けれど少しばかり緊張した声で言われて、紘弥は浩一を見上げながら涙をこらえた。 「はい……よろしくお願いします」  言うと、幾拍もせずに浩一の腕が紘弥を抱え上げて、強い力で抱き締めてきた。 「ああもう! すごいな、人生ってこんなこと起こるんだな!」 「こ、浩一さん?」 「君が俺の恋人になってくれるなんて、夢そのものだよ。こんなふわふわした頭じゃ明日にも振られるんじゃないかな、俺」  そう言って顔を覗き込んできた浩一の潤んだ目に、紘弥もまた動悸を覚えて、すぐに言葉が出なかった。 「……俺から振ったりしませんよ……」 「ええ? そんなことないと思うけどな……、……でも、うん、振られないように大事にするよ」 「……」 「嬉しいよ……ほんとに。生まれてきてよかった……」  ベッドの上に座らされて、いかにも大事そうに抱き寄せられて、紘弥はどう応えればいいのかわからずに戸惑う。自分がそれほどまで浩一を喜ばせる存在だとは思っていなかった。 「……あの、浩一さん……」 「うん?」 「俺……浩一さんのことも、浩一さんの仕事のことも、きっとよくわかってない子どもなんで……気長に付き合ってくれますか……?」  おずおずとそう訊くと、浩一は目を丸くした。 「そんなの、俺もだよ。見た目は大人に見えてるかもしれないけど、中身は全然だし、……紘弥くんがたくさんわがまま言ってくれたら助かるな」 「ええ?」 「我慢されたら、俺、わかってあげられないことたくさんあると思うから……言ってくれれば俺なりにがんばるよ」  これ以上自分に何をしてくれるつもりなのだろう、と思いながら、その瞳の優しさを拒むことはできなくて、紘弥ははにかみながら頷いた。 「わかりました……がんばってわがまま言います」  そうして、と言って浩一は笑った。その温かくておおらかな笑顔が好きだ、と思いながら、それを言葉にするには胸があまりにもいっぱいだった。 「……浩一さん」  抱き締められて、浩一の体温に溶けそうになりながら、紘弥は呟く。なに、と耳元でくすぐるような優しい声がした。 「俺……抱いてほしいです。抱いてください……」  欲情とは違った感情が溢れ出て仕方なくて、紘弥はすがるような気持ちでそう言った。見返してきた浩一は驚いたような目をしていたけれど、紘弥の肩に乗せられた手には力がこもるのがわかった。 「……いいの? 俺、今君を抱いたら、すごく調子に乗りそうだよ」 「そしたら、俺、それをずっと覚えてます」  紘弥の言葉に、浩一は眉を下げて笑った。 「俺、ますます君に逆らえないね」  その声の柔らかさにまた泣きそうな気持ちがこみ上げて、どうしようと思った直後に、頬を包まれて温かい口づけをされた。それがまるで慰められているようにも思えて、甘えたい気持ちに従って浩一の背中に手を回す。そうすると両腕でしっかりと抱き締められて、その確かな力加減がたまらなく嬉しかった。 「……好きだよ、紘弥くん」  唇の離れ切らない距離で紡がれた言葉に、俺もです、と応えると、それだけで胸に温もりが満ちるようだった。

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