5 / 51
第5話
エレベーターを使わず階段を駆け上がる
自分の部屋のドアノブを掴もうとするが、一歩手間でドアが開き、勢いをつけたまま玄関に転がり込んだ、と思ったが何かにぶつかりそれと一緒に倒れ込んだ
「ってぇ…え?才田?どうした」
「あ、ごめ、篠宮く、ん」
「いやいや大丈夫」
「ごっ、ごめん俺今日、学校と部活休むから先生と顧問に言っといてくれるかな」
「うん、わかったけど、」
「ありがとう!!」
篠宮に馬乗りになって居たのに気付き慌てて飛び退くと伝言を頼みそのまま自分の部屋に入った。
ガチャリと鍵をかけてベッドに倒れ込む。玄関のドアが閉まる音がして篠宮が出ていったのがわかった。
「…ふ、っ…」
その瞬間、堰を切ったように両目から涙がボロボロと溢れ出す。何回目を擦っても深呼吸をしても涙は止まらなくて、昼までぶっ通しで泣き続けた
「…はぁー…」
一つ深く長いため息をつくといいタイミングで腹の音がなる。時刻は午後一時前、今頃昼休みだろう。何か食べるかと部屋を出てキッチンへ向かう。冷蔵庫の中にはカロリーメイトとエナジーゼリー、水とお茶しか入ってない。そうだ、篠宮は学食か。自分も食に無関心な為、昼は購買、夜は気が向いたら学食に行ったり行かなかったり、という不健康な生活をしている。仕方ない、カロリーメイト食べるか。
「…」
もそもそと咀嚼しては飲み込むの繰り返し。口の中の水分を奪われ水を一気飲みする。
「ただいま〜」
「?!」
ガチャ、と玄関の開く音とこちらへ向かってくる足音。
ヤバい、何で?早くないか?今日は6限まであるしその後は部活だろ?今の誠の顔は明らかに泣きましたとアピールしている様に目が腫れているだろうし、まだ涙目だ。急いでティッシュで目を擦る。
「櫟田?」
「え?」
隣に来た篠宮から櫟田の名前が出てくるとは思わず、驚いて顔を上げたのが運の尽き。篠宮は誠を跨ぎ後ろのソファに両腕をついた。壁ドンならぬソファドンだ。
「櫟田と何かあった?」
「…いや…」
あった。大ありだ。だがもう今朝終わった事で、何も無かったとも言える。まだ心の整理が付いていないので結局、何かあったという事になるだろう。誠は答えあぐねて視線を逸らした
「ねぇ、俺にしない?」
「…ぇ…」
優しく甘い声で囁かれ、目を見張る。塩素で傷んだ茶髪から覗く同じ色の瞳は冗談を言っているようでは無く、真剣そのものだった。
「狡いと思う?」
その問いは、数時間前まで櫟田と付き合っていたのに別れた途端、篠宮に乗り換える誠の事か、誠が弱っている時に漬け込む様な真似をしている篠宮の事か誠には分からなかった。
ともだちにシェアしよう!