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第8話

午後23時、二人は昼と同じようにベッドに寝転んでいた。今日の午前中はこんな授業があったとか、インターハイの事などたわいもない話をしているとだんだん誠の声が眠そうになっているのに気付く。 「もう寝ようか。疲れたでしょ」 「…ん…篠宮くん…今日は…ありが…と…」 「おやすみ才田」 最後の最後まで一生懸命、睡魔に抗っていた誠だが手のひらで瞼を下ろしてやると案外すんなり寝息を立て始めた。 伏せられた長い睫毛が誠の白い肌に影を作る。鼻は決して高いとは言えないが形が良くて、薄桃色の唇は小さく可愛らしい。薄く開いた唇から無理やり視線を剥がし目を閉じる。 思い出すのは一年前の入学式前日。この部屋に自分の荷物を運び込んでいる時に、同じように荷物を運び込みに来た才田に一目惚れをした。 『あ、篠宮くんですか?』 『うん、もしかして才田くん?』 『うん。これから3年間よろしく』 『こちらこそ』 玄関に自分の荷物を抱えて立っていた才田の髪には一枚の桜の花びらがついていた。あの姿はこれから一生忘れる事は無いだろう。会話こそ事務的な内容だったが、男にしては容姿も行動も可愛らしい才田に一瞬で恋に落ちた篠宮。懐かしくて思わずふふっと笑みが漏れる。 半ば強引に付き合い始めたが篠宮はニヤニヤが止まらない。一年間、才田が櫟田に笑いかけているのをすぐ傍で見るのは本当に辛かった。だが今はこうやって自分を選んでくれている。それだけで十分だ。 あぁ…明日の朝、起きたら夢オチだったとかいう展開だけは止めてくれよ、と思いながら篠宮も本格的に眠りについた。

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