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第9話
毎朝7時、決まった時間にパチっと目が覚める。自分の腕の中には愛おしい恋人がすぅすぅと寝息を立てていて思わず頬が緩むのを自覚した。
(良かった。夢オチじゃなかった)
篠宮より頭一つ分、身長が低いので抱き締めると丁度、誠の頭は篠宮の顎下にくる。欲望のまま、スンっと息を吸い込むと自分と同じシャンプーの匂いがして嬉しい。前から違う種類を買ってくるのが面倒臭いからと同じ種類を使っていたのに、付き合った途端 特別な香りに感じるんだからもう末期だ。
それから10分間、誠の寝顔を堪能して起こした。もう少し寝せてやりたいのと寝顔を眺めていたかった気持ちはあるが急いで支度したくないから、渋々だ。
「才田、ごめん、朝飯忘れてたからカロリーメイトでいい?」
「うん、なんでもいいよ」
二人で並んでもそもそとカロリーメイトを齧る。
誠は隣の篠宮を見上げた。寝起きでも篠宮はかっこいい。顔を洗って寝癖を直しただけなのに。それに栄養補助食品がやけに似合う。もちろん褒め言葉だ。特に数秒で補給できるのがウリのゼリーを飲んでいる篠宮はかっこよ過ぎて眩しいな、と誠はリアルに思った事がある。それは去年の夏の新人戦。アップが終わり控え場所へ戻ってきた櫟田と篠宮にゼリーを渡した時だ。当時、既に付き合っていた櫟田は当たり前にカッコよく、他の部員なんか見てる暇はない!という感じだったのに、篠宮だけは違った。まるでコマーシャルの様にゼリーを喉に流し込む篠宮を櫟田にバレないようにそっと盗み見て、どこかのモデルの様だと感動したのを思い出した。
「どうした?」
「え?あっ!いやカロリーメイト似合うなって!」
「褒めてる?」
「褒めてる!でもinゼリーと篠宮くんの組み合わせの方が好きかな!」
「うーん?よく分かんないけどありがとう」
余りにガン見していたのだろう。怪訝な目をした篠宮と目が合い、慌てて説明すると苦笑いされた。
恥ずかしい…手で熱くなった頬を抑えるとぽんぽんと頭を撫でられる。
「かわいい」
「…え…あ…」
誠を見つめる篠宮の視線は甘すぎて反応に困る。櫟田も可愛いとか好きとか言ってくれたりしたが、性行為の時だけで思い出すと悲しくなる。今思えば自分はそこまで櫟田に好かれていなかった。櫟田が好きだったのは誠の身体だけだったのかもしれない。
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