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第10話

あっという間にじわりと滲んだ視界。情けない。自分を好いてくれる人が隣にいるのに元彼を思い出して泣くなんて失礼だ。そう思い誠は潤んだ目を見られないように顔を下げてカロリーメイトをかじった。 「才田?ごめん嫌だった?顔上げて」 篠宮は様子がおかしいのに直ぐに気が付き、誠を抱き上げ胡座をかいたそこに座らせた。一年間、誠の事だけを見つめていたのだからこの距離で様子がおかしいのに気付かないわけがない。 篠宮は自分が『かわいい』と言ったから嫌だったと思っているが、誠は本当は櫟田にそこまで好かれていなかった事と、篠宮は何故自分なんかを好きだと言ってくれているのか分からないので頭がぐちゃぐちゃだった。 痺れを切らした篠宮が顔を覗き込む。優しい、優しすぎる眼差しに目頭がぐぅっと熱くなって涙がボロボロ零れ落ちた。 「ちが、うぅ…嫌じゃない…っ、…っふ、ぇ、…」 「うん。ゆっくりでいいよ」 「俺っ、俺、好かれてなかった…俊、はっ、俺のこと、…好きじゃなかったって…」 「うん。俺は好きだよ。誠が好きだよ」 「…っう…っ、なんで…しのみやく、んは、俺のこと好きなの…」 「翔って呼んで。ん〜なんでかなぁ。俺、ここに荷物運びに来た日にさ、誠に一目惚れしたんだ」 「ひとめぼれ…?」 篠宮は懐かしむように目を細めて微笑んだ。その顔が綺麗過ぎたのと一目惚れをしたと言われた驚きで誠の涙と嗚咽はぴったり止まった。 「誠がここに荷物運びに来た時さ、髪の毛に桜の花びらつけてたんだよ」 「うん」 「それが超綺麗で一目惚れした」 「綺麗って…」 「誠は嫌かもしれないけどさ、綺麗って言葉が一番似合うんだよ」 「あ、ありがとう?翔くんはとってもカッコいいよ」 「そうかな?この顔好き?」 「……え?え、っとぉ」 分かりやすく頬を染める誠に篠宮は笑う。昨日まで櫟田と付き合ってた癖に、なんて事は微塵も思わないし寧ろ櫟田には感謝したい。勿体無い事をしたな櫟田。こんなに一挙一動が可愛いのに。一体お前は今まで誠の何処を見ていたんだ?と問い詰めたい気分だ。

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