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第13話

「ごめん誠、俺が悪かった。あの女は切ったしさ、仲直りしよう?」 「あの、本当に何言ってるか分からない、んだけど」 少しずつ、少しずつ顔を近付けてくる櫟田。好きだったのは優しくてみんなの人気者で、誠の気持ちを考えてくれる俊だったのに。 唇が触れ合うまであと数センチ。誠は思いっきり顔を背けた。櫟田はそれを見て笑顔を消す。 「誠」 「っい、や!!!」 「避けるな」 「ひ、ぃっ、」 ガッと顎を掴まれて、真正面に向き直される。その痛さと恐怖に思わず悲鳴が漏れたその時、櫟田の背後の用具入れの扉が開いた。 鍵を掛け忘れていたのか呑気に声を上げながら入ってきたのはマネージャーの内の一人だった。櫟田はチッと舌打ちして誠から離れる。 「わ、ビックリした、お前ら何してんの?もう終わったよ?」 「本当?フィン取りに来たんだけど中々見つかんなくてさ、手伝ってもらってた。お疲れ〜」 「おう〜」 嘘だ。櫟田の今日のメニューはフィンを使わなかったはずだしフィンはすぐ見つけられる場所に置いてある。 白々しく言うと櫟田はさっさと用具入れを出て行った。 それを見ると安心で腰が抜けて床にへたり込んでしまう。 そんな誠をマネージャーその1は怪訝そうに見下ろした。 「才田?」 「…ちょっと、腰…抜けた」 「急に?どうした」 「ごめん」 肩を貸してもらいながら用具入れを出る。部員はほぼ全員更衣室へ行っている様で、プールサイドには片付けをしているマネージャーがいるだけだった。 「ありがとう、もう大丈夫」 「何か知らないけど気を付けろよ〜」 数歩、歩くと案外すんなり腰は元通りになった。 荷物置き場にある自分のバッグからスマホを取り出すと篠宮からのメッセージ。『櫟田が誠は体調悪いとか言ってたけど本当?今どこ?』と受信している。震える指先で表示して、電話のマークをタッチする。 『誠?大丈夫?今どこ?』 「…まだプールサイド…篠宮くん、もう着替えた?」 『まだプールサイド?俺はもう着替えたけど。それより動けないくらいキツいの?』 「や、体調悪くない、から、えっと先に帰ってて!」 『え?まこ』 ブチっと返事を待たずに切った通話。着替えた篠宮がプールサイドにいる誠の元へ来るのは無理だし、出口で待ち合わせして櫟田と鉢合わせでもしたら大変だ。 誠はまだ少し震える足を奮い立たせプールを出ると寮に向かって歩き出した

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