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第27話
「…」
「…っぁ……」
「篠宮っ、違う、これは」
この状況を引き起こした櫟田が一番焦った声を出す。誠は思考回路が停止して声も出ない。
誠が櫟田の後ろにいたのを見つけた篠宮の表情は『無』だった。いつも朗らかに笑っている様子からは想像も出来ないほど表情が無く、誠は何も言えない。
「ごめん櫟田、邪魔したみたいだな」
「篠宮っ!」
「……」
誠と目が合ったあと、そう一言残し篠宮は櫟田に背を向けトイレを出ていく。誠には何も声をかけなかった。
ズキン、と胸が軋む。
追いかけないと、そう思うほど足が竦んで動けない。
勘違いした?怒らせた?嫌な気持ちにさせた?それとも全部?多分、全部だろう。誠が篠宮の立場だったら絶対泣いている自信がある。
「……、…」
「…誠」
「…ど、うしよ」
「…ごめん…お前ら付き合って…るよな?…ごめん…」
「……俺…も悪い…から…」
櫟田は篠宮を追い掛けるべきか否か迷っているようにオロオロしている。
それから暫く二人で突っ立っていると、他校の生徒がトイレに入ってきたので我に返り揃ってトイレを出た。
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