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第28話
「…ックソ」
篠宮は人気のない駐車場の隅でしゃがんでいた。
頭をガシガシと掻くが苛つきは収まらない。舌打ちと大きなため息、これで何度目だろう。数えるのも止めた。
夏の生ぬるい風が頬を撫でる。不快だ。不快で堪らない。誠に触れた櫟田も、蕩けた顔をしていた誠も、この生ぬるい風も全てが不快で篠宮を苛つかせる。
トイレで見た誠の顔は事後の色気が半端なかった。
あそこに居たのはきっと無理矢理なんだろう。
あの時、櫟田を殴らなかった自分を褒めたい。
でも誠は篠宮を見ても動かなかった。まるで櫟田と居る方が安心するとでも言うように、櫟田の後ろにいたのだ。
(…また櫟田か…)
「…はぁ」
最後に大きく深呼吸をして立ち上がる。
息を吐き出す度に誠への思いも少しずつ消化されれば良いのに、と思い自嘲気味に笑う。
一年間、傍で恋焦がれた相手がやっと自分の事を見てくれたと思った矢先にこれだ。
ここ数週間、無理をさせていたのだろうか。
初めてハグをして眠った夜も、篠宮からのキスを受け入れてくれた時も、二人でスーパーに行ってオムライスを食べたあの日も、誠は嫌がっている様には見えなかった。
でも、全て演技だとしたら。誠がそんな器用な事を出来るとは思えないが、さっきの二人を見るとそうも言い切れない。
「…戻るか」
戻った所で二人を見ると平常心でいられる自信はない。
だが戻らないとどうしようもない。全てにイライラしてそこら辺の小石を思いっ切り蹴って待機場所へ戻る篠宮だった。
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