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第29話
インターハイが終わって一週間。いつも通りの日常を送っていた。7時過ぎにスマホのアラームが鳴り、眠い目を擦りながら止める。
「あ、おはよう才田」
「…おはよう篠宮くん」
部屋から出るとリビングに居た篠宮から向けられる笑顔。それは前と変わらず優しい。けれど、どこか距離があるそれに胸がギシギシと軋む。
(また誠って呼んでよ…)
そう喉まで出かかるが、自分が言っては駄目だと口を噤む。
インターハイから帰ってきた日、篠宮は申し訳なさそうに謝ってきた。『櫟田と誠が仲直りしてたの知らなかった』
『今まで無理させてごめん』『少しの間だったけど誠と付き合えて嬉しかった』と。
謝るのは間違いなく誠の方で、あの日も帰りのバスで謝ろうと思っていた。行きのバスの座席が篠宮の隣だったからだ。なのにバスの座席は他の部員の隣に変えられていて寮に帰るまで話せなかった。そして帰ってすぐに口を開こうとした誠を制し篠宮が先程の台詞を言ったので、頭がぐちゃぐちゃで何も言えなかった。
それから毎日、冒頭の様な感じだ。
誠は篠宮に気付かれない様に小さくため息をつく。
悩みの種はこれだけではない。櫟田が誠に変に話しかけて来なくなったのはいいのだが、代わりに篠宮に1年生がアタックしているのをよく見かけるのだ。
それを見る度にイライラして吐き気がする。だが誠は何も言えない。篠宮と付き合っていないから。
(今日も見ないといけないのかな…)
こんなため息ばっかついてちゃダメだ、と頬を叩き登校の準備を始めた。
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