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第31話
「篠宮先輩って何でそんなに泳ぐの速いんですか?」
「え?あ〜何でだろ」
(あ…あぁ…!近いよ…!!近すぎる!!)
篠宮にべったりくっついて質問攻めをする旭を見て、タイムのメモをとる紙をぐしゃりと握ってしまう。旭は媚びるように上目遣いだし篠宮も心做しか満更でもないような顔をしている。まるで二人だけの世界みたいだ。それを誠と同じ様に見ていた櫟田と田中が声を掛けてくる。
「…誠…いつでも話聞くから…」
「アレは面白くねぇな。まこっちゃ〜ん俺も話聞くよ」
「…二人ともありがとう」
櫟田は完全に改心したかは分からないが、インターハイ以降、普通の友達くらいの距離感で接してくるようになっていた。変にギクシャクするより良い。
「あ、俺泳ぐからタイムとってくれる?」
「いいよ」
(篠宮くんは旭くんと仲良さげに話してるしね!)
前は基本的に篠宮のタイムを測る事が多かったのだがここ一週間、櫟田のタイムを測ることも増えた。多分気を使ってくれているのだろう。櫟田が泳いでいる時は田中が話し掛けてくれるし、田中が他の部員のタイムを測っている時は櫟田と一緒にいる。ありがたい事に部活中に一人でいる時間はほぼ無いのであまり旭の事を考える暇はなかった。
「もうっ!!!!」
枕を掴んで床に投げつける。部活が終わって帰ってきてすぐに篠宮は旭の部屋へ行ってしまった。夕食や風呂はどうするのだろうか、聞き損ねた誠はイライラが頂点に達して頭が爆発しそうだった。
「もうもうもう!!!ああー!!!!!」
(篠宮くんとか知らないし!俺は勝手に一人を楽しむもんね!!)
わざとドスドス足音を立てて浴室へ行き、入浴する。
傍から見れば明らかに完全な嫉妬なのだが、櫟田と付き合っていた頃は嫉妬という概念が無かった為、自分が嫉妬していると中々気付けない誠だった。
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