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第34話

夜間の移動は禁止になっているのに破ってしまい酷い罪悪感の中、篠宮は自分の部屋へ急ぐ。まだ早朝5時なので廊下には誰もいないのがラッキーだった。 音を立てないようそっと鍵を回し、ドアを押す。 電気は付いておらず、詰めていた息を吐いた。 (…なんか浮気帰りの旦那みたいな気分だな) 「…え?」 忍び足でリビングへ向かうとローテーブルに伏せている誠が目に入る。その前には二皿のオムライス。この間のより数段綺麗にできている。まさか、自分の為に作ってくれたのか、なんて自惚れそうになる。第三者から見ると完全にそうなのだが篠宮は違うと自分に言い聞かせた。寝ている誠にそっと近寄り隣に座る。 「…誠…好きだよ…」 今だけ、寝ている時だけ、と誠を下の名前で呼んで頭を撫でる。 「俺だけ見ててよ…」 「…んん…」 「…誠…」 無意識だろうが、ふにゃんと笑う誠が可愛くて篠宮の鼓動は高鳴る。ふと誠の頬に泣き跡があるのに気が付いた。 「何で泣いてたの?」 もちろん返事は帰ってこない。 泣いている理由が自分であって欲しい。閉じ込めたいし誰にも見せたくない。四六時中自分の事を考えていて欲しいし話すのは自分だけがいい。 数十年の純愛に比べれば、たった一年だが誠は篠宮の初恋だ。好きで好きでたまらない相手が目の前で無防備に寝ている、それだけでどうにかなりそうだった。 白い頬は青白くて触れると消えそうな儚さがある。最近の誠は特に。 (今ならノーカンだよな…) 心の中でごめんと何度も謝りながらその白い頬に、静かに、優しく、自分の唇を押し付ける。

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