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第35話

瞬間、長い睫毛がふるっと震えて、ゆっくりと瞼が上がり目が合う。バレるとまずいのに、早く部屋に戻らないといけないのに、『王子様のキスで目覚めた白雪姫』みたいだな…と思って部屋に戻り損ねた篠宮。 「…翔くん…だ…」 「おはよう才田」 未だぼんやりとしている誠は篠宮が『才田』と呼ぶのを聞いた途端、眉根をきゅうっと寄せて篠宮の手首を掴む。 「それやだ…誠がいい……」 「寝ぼけてる?」 「旭くんの…とこ…行かないで…」 「…ごめん」 「俺の…翔くん…だもん…俺…が…一番好き…」 幼い口調でイヤイヤと涙目で首を振る誠に篠宮は戸惑う。 そして今までの疑問や苛立ちが爆発した。 「一番好き?誠は櫟田が好きなんじゃないの?この間トイレから一緒に出てきただろ…。思わせぶりなの期待するし同情ならやめて欲しいんだけど。」 「…え?」 「誠の好きって何?」 「ぁ…の…期待して…俺のことだけ見て…」 早口で言うと誠から予想外の返事が来て篠宮は驚く。 数秒か、数十秒、見つめ合う。数分だったかもしれない。その間、心臓はドッドッドッと鳴り響いていて、誠に聞こえていないか不安だった。大きく鳴り響く心臓は痛いのに、どこか心地よくて、でもやっぱり緊張して息が荒くなる。 「…それって、」 「お、お俺、俺、俺ね…、翔くんが好き…!!」 もうすっかり目が覚めたのか誠はパッチリ目を開けてその黒い瞳に篠宮を一生懸命に写している。感情が昂りすぎて半泣きの誠。篠宮はそれに手を伸ばしていいのか迷う。 「…翔くん…また俺と付き合ってくれる…?」 「…え…」 「…旭くんが好き…?」 「…いや…謙太は、」 篠宮の頭はパンク寸前だった。誠はこれまでも明らかに篠宮が好きだという雰囲気を醸し出していた。篠宮も誠からの視線を感じていたしもしかして…と思っていたが勘違いしてはいけない、と必死に誠を視界から外していた。なのに今、篠宮は誠から告白されているのだ。驚きと興奮で返事ができなかった篠宮に誠は旭が好きだと勘違いして遂に泣き出す。 「…っ、ぅ…やだ…」 「え?!誠?!」 「やだ!やだやだ!!嫌だ!!!!」 「いや、ちょっと、誠!?」 「…やだ…嫌だ!!聞きたくないもん!!」 「誠、聞いて」 いつもの落ち着いたイメージからは想像も出来ないほど幼児帰りしたみたいにぐずり始めた誠に篠宮は焦る。

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