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第36話
その後何回呼び掛けても聞こうとしない誠に篠宮は諦めて最終手段のキスに出た。細い顎を掴み、性急に唇を押し付ける。誠もこれにはさすがに驚き篠宮を見つめた。
「ぁ…」
「誠、落ち着いて。聞いて、俺も誠が好き。大好き。」
一際大きく見開かれた目からぼろっと大粒の涙が零れ、白い頬を滑り落ちる。
「本当に?もう一回言って…」
「好きだよ誠」
「…翔くん…翔くん…好き…」
「ありがとう…」
(やっと好きになってくれた…)
えぐえぐ泣きながら『好き、翔くん好きぃ〜』と繰り返し、抱き着いてくる誠が可愛くて、比喩なしで本気で心臓が飛び出そうな篠宮。正直この流れで致したい気分でしかないが誠の前では『誠には優しい王子様』を貫こうと一年前に決めたので深く深呼吸をする。そして表情筋を固め少し体を離した。
「…二度寝…する?」
「抱きしめてていい?俺のとこで寝よ」
「うん」
久しぶり、と言っても1週間ぶりの篠宮の部屋は相変わらず綺麗で整理整頓がされている。久しぶりの篠宮の匂いを胸いっぱい吸い込むと篠宮に苦笑いされ思わず赤面する誠。
「臭くない?そんなに好き?」
「うん。…いい匂いだなって…」
「俺も誠の匂い好き」
男子高校生二人には少し狭いベッドで身を寄せあいながら互いの体温を感じる。篠宮は他人の体温を感じるのが苦手だが誠だと何とも思わないのに驚いていた。寧ろもっと感じたいとも思う。
「ねぇ、今日サボらない?」
「え?」
授業はサボらない、いやまず学校を休む事すらしない真面目な篠宮からの提案に思わず驚く。篠宮の表情はどこか照れた様だった。
「…今日だけ…誠…独り占めしたい…なって。」
「んっ、うん…俺も翔くん独り占めしたい…」
誠が了承すると篠宮はふにゃっと嬉しそうに笑う。
その表情も珍しく、もう一度驚いてしまった。いつもの誰にでも好かれるような人当たりの良い笑みでは無く、本当にリラックスしきった笑顔で心臓がきゅんと震える。
「起きたらオムライス食べようか」
「この間より綺麗にできたから楽しみにしてて」
「はは、うん…おやすみ」
「おやすみ翔くん」
篠宮がゆっくり夢の世界へ旅立ったのを確認して誠も目を閉じる。なんだかとても良い夢が見れそうだった。
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