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第38話
考えれば考える程、深く思考が絡まりペンが止まる。
誠が自分と居るのはデメリットしかない。その事実だけが篠宮をずっと悩ませていた。
誠には笑っていて欲しい。『普通』の幸せを手に入れて『普通』に暮らして欲しい。その『普通』の未来に自分は居ない。偏見なんて無くなればいい、と思っているはずなのに自分が一番に偏見をしている。
「篠宮くん?」
「…あぁ…ごめん、なに?」
「いや、急に黙ってどうしたのかなって」
ズブズブと沈んでゆく気持ちを誠の声で引き上げられる。
ハッと顔を上げると心配そうにこちらを覗き込む誠。
「…誠はさ、怖くない?大人になる事とか今が変わる事」
「…んー…」
誠はペンを置く。篠宮の唐突な問いに真摯に答えようとしているのがわかって少し嬉しくなった。そこまで深く考えてくれなくても良いのに難しい問題と対峙した様に眉を寄せる誠。
「確かに大人になるのは、少し怖い。けど篠宮くんと一緒なら何でも乗り越えられそう…とかちょっとクサいかな…?」
「そ、っ…か…」
恥ずかしそうに、控えめに照れ笑いする誠に力が抜ける。
それで思ったより全身に力が入っていたのに気付いて自分で驚いた。実家帰りは仕方ない事だと割り切っていたつもりだが案外まだ自分の気持ちを殺しきれていない。
でも誠の照れ顔に免じて、死ぬ程嫌な実家帰りもまぁ耐えれば終わりだと無理やり納得し少し頑張ってみようかと思った篠宮だった。
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