2 / 138

1-王子様はピアニスト(2)

ことの発端は、半年前の小原悠のコンサート会場でのことだった。 当時俺は会場である国立音楽堂にスタッフとして勤めていて、コンサート当日も準備に忙しくしていた。 音響チェックが終わったことを確認して、俺は一旦事務所に戻った。 他のスタッフも忙しく立ち働いている。 そこに、一人のスタッフが慌てて駆け込んできた。 「すみません!ちょっとでも余裕のある人手伝ってください!」 「どうしたの?」 近くにいた俺が聞くと、半泣きの彼女は抱えていたフライヤーを見せた。 「手違いで、アンケート用紙だけ挟みこまれてなくて……あとは手作業でやるしかないんです」 「うわぁ」 手間を考えた俺は思わず苦笑いした。 「いいよ。手空いたから手伝う」 「ありがとうございますー!ロビーで作業してるんで、そっちにお願いします」 俺も含めて八人ほどがロビーに集まって作業を始めた。 皆で机を囲み、フライヤーの束にアンケート用紙を一枚挟んでは揃えて中央の段ボール箱に詰めていく。 ひたすら地味な作業に全員が没頭していた。 彼が現れたのはそんな時だった。 「皆で何やってんの?」 正装した小原悠が、突然皆の後ろからひょこりと顔を出した。 背が高いから、まさに頭一つ抜けて見える。 「フライヤーの挟み込み作業です。ちょっとミスっちゃって……って小原さん?!何でこんなところに」 「気分転換にふらふらと、さ。俺もやっていい?」 あわあわと慌てるスタッフ達を尻目に、小原悠は俺の隣に入るとアンケート用紙を一枚手に取った。 「これをここに挟めばいいの?」 「そうですけど……小原さんにやっていただくわけには!何かあったら一大事ですから……!」 担当の女の子は大慌てに慌てている。 小原悠はそれを聞いて朗らかに笑った。 「俺、そんな繊細じゃないよ。いいじゃん。やらせてよ」 思っていたよりも、小原悠は気さくな性格らしかった。 てきぱきとした手つきで用紙を挟んでいく。 隣で俺は小原悠の手に見入っていた。 (うわぁ……理想的なピアニストの手だなぁ……指長いし、しっかり筋肉ついてる……十度以上届いちゃいそう……) 小原悠がふと目をあげて俺を見た。 「君、手、止まってるよ?働け働け」 「は、はい!」 慌てて俺は作業を再開した。 一時間ほどして地道な作業は終了した。 「皆さんありがとうございました!小原さんもご協力ありがとうございました!」 「たまにはこういうのも楽しいね。今日はよろしく」 ひらひらと手を振って、小原悠はその場を立ち去った。 彼の姿が見えなくなってから、女性陣が集まって押し殺した悲鳴を上げた。 「かっこいい……!超かっこいいよぅ……」 「しかも性格までいいとか!最高!!」 身もだえしている彼女らを横目に、俺は段ボール箱を抱えた。 「机の並べ替えお願いできる?ついでにこの辺もそろそろセッティングしちゃおう」 「はい!」

ともだちにシェアしよう!