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2-越野颯人の長い一日(5)
走ること二十分。
休憩してリフレッシュしたからか、いたって快調にハイウェイを疾走していた。
夜明けはまだ遠い。
「おい」
悠さんが突然口を開いた。
「仕事しろよ仕事」
「は?」
「眠くなってきちまったんだよ。なんか喋れ」
本っ当に無理無体を言う男だ。
「私、噺家じゃないんですけど」
「マネージャーなんて口八丁手八丁な仕事だろ?トークの相手くらい朝飯前だろうが」
「まだマネージャー一年生なんで」
「そんな言い訳が通用するか。俺より十も年上のくせして」
分かってるならもう少し年長者を敬え。
「悠さんって、帝都藝術大学の出身ですよね」
「そだよ」
幼少の頃からコンクールで派手に賞をかっさらっていたので、俺でもデビュー前から存在を知っていた。
「卒業してすぐに池田音楽事務所に所属して」
「ああ。所長に声かけられてさ。他にもいくつか話はあったんだが、所長の声気に入ったからここにした」
確かに所長のハスキーボイスは魅力的だが。安直すぎやしないか。
「そんな理由で就職先決めたんですか」
「だってよ、他に決め手がなかったんだよ。迷えば迷うほど皆そろって待遇つり上げてくるだけだし。適当なところで手を打った」
「大学院通う方も多いですけど、それは悠さんの選択肢になかったんですか?」
「なかったな。早く金稼ぎたかったからよ。勉強は就職してからでもできるじゃねえか」
「へえ。なんでまた」
考えるように悠さんは少し間をあけた。
「んー……家が別に裕福なわけでもないのに、帝都藝術大学なんてとこ通ったからな。あそこ金かかんだよ。だらだら学生生活続けるメリットも感じなかったからなー……、ってこーゆー湿っぽい話はなしだ。次」
湿っぽくしたのは悠さんですよと言いたかったが口を噤んだ。
「今日はいい天気ですね。帰りもこんなだといいですけど」
「ぅおい、天気の話って、もうネタ切れかよ。そういや、今日の撮影って何時までかかるんだ?」
悠さんからツッコミが入った。
「朝焼けが画に入らないといけないですからね。撮影自体は六時前に終わるって聞いてます」
「早えじゃん。じゃ、十時半前には事務所に戻れるな」
悠さんの声のトーンが上がった。
「十時半に用事でもあるんですか?」
「いや、ちょっと日課がな」
事務所にいる時、いつもその時間に悠さん何してたっけか。
事務仕事をしてる時は悠さんのワガママも少し減るので、あまり気にしていなかった。
「お、海が見えてきたな」
「そろそろ高速降ります」
「目的地近い?」
「そうですね。もうあと三十分もかからないみたいです」
「長かったなー」
「私はそんなに眠気が来なかったので割と楽でした」
ウインカーを出して、ハイウェイを降りる準備をした。
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