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3-性的魅力とその弊害についての考察(3)

収録当日。 悠さんは機嫌がいい。ショパンの『英雄』を口ずさみながら、後部座席で窓の外を眺めている。 今日はまだワガママも言っていない。 こうも順調に事が進むと逆に不安になるのは杞憂だろうか。 「なに不景気な面してんだよ、颯人」 上機嫌な悠さんがからかう。 「いえ、なんでもないんですけどね。なんか嫌な予感がするんです」 「だーいじょぶだよ、なんもねぇって。颯人は心配性だな」 信号が変わるのを待っていると、横合いから手をのばしてきた悠さんが俺の頬をつまむ。 「いひぇ、わひゃひのよひゃんはあひゃふんれふ」 「あっははっ、何言ってんのか分かんねーよ」 信号が変わったので、悠さんの手をはたき落として直進する。 「直前になって、また何かを忘れてきたとか言わないでくださいよ?」 「言わねーよ。準備は完璧、気分は上々。今日もまたファン増やしてきてやるよ」 「それは結構なことなんですけどね……はぁ」 「辛気くせーぞ颯人。そんなため息ついてるから不安になるんだ。堂々としてろよ」 「悠さんみたいに自信満々にはなれないですよ……」 ため息混じりに吐き出して、ルームミラーで悠さんを見やる。 相変わらずの凛々しい王子様フェイスで、口許には笑みさえ浮かべている。羨ましい。 その自信はどこから湧いてくるのか。 テレビ局の地下にある駐車場に車を止め、荷物を持って車を降りた。 「ちょっと、悠さんの荷物なんですから、悠さんも少しは持ってくださいよ」 「やだ。別に多くも重くもねーだろ。頑張れ颯人」 いつもの如くすたすたと歩いて行く悠さんの後を、慌てて追いかける。 受付に行くと、ちょうど番組スタッフの方がいたので、楽屋へ案内してもらった。 着替えやすいように持ってきたものを広げると、俺は楽屋の出入り口に立った。 「ちょっとスタジオの様子見てきますね」 「おーう」

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