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3-性的魅力とその弊害についての考察(10)
お風呂に入って、着替えを借りて、ようやく人心地がついた気がした。
リビングでテーブルの上に置いてあった音楽雑誌をなんとなくめくっていると、悠さんがお風呂から出てきた。
「悠さん、ロックとかも聴くんですか?」
「ああ。高校の時は軽音部でギター弾いてた。文化祭でコピーバンド組んだりとかしてな」
「えぇぇ、ギター弾いてる悠さんって想像がつかないです」
「そうか?結構評判良かったぜ」
「女の子にモテてそうですよね」
「それはまあ、そこそこに」
ふふん、と悠さんは鼻で笑う。
「やっぱり」
「つーか、それ目的で友達に誘われて始めたんだけどな」
悠さんは懐かしそうにソファにもたれて天井を仰いだ。
「え、当時はショタコンじゃなかったんですか?」
俺が訊くと、悠さんはぷっと吹き出した。
「直球でくるなー、颯人。いいけど。……あの頃は、女の子が好きだと思ってた。実際何人か付き合ったりもしてた。そんなだから、バンド組んで女の子にきゃーきゃー言われるのもそんなに悪くなかったんだけどな」
悠さんは言葉を切って、冷蔵庫から持ってきたペットボトルの蓋を捻って開け、一口飲んだ。
「俺、七つ年下の弟がいるんだ。二人。あいつらが十歳の時、なんかノリで三人で風呂入ろうって盛り上がってさ。いや、別に風呂広くないぜ?狭いところでぎゅうぎゅうになって騒いでみたかったんだよ。で、脱衣所で先に服脱いで、早く入ろうって誘ってくるあいつら見てたらさ……勃っちゃったんだよ。やばいだろ……?さすがに風呂は入れなくて、腹壊したっつってその場は逃げたんだけど。その時から女の子に興味なくなっちゃったんだよなぁ」
悠さんは俺の目を覗き込むように見て、一言、
「引いた?」
と聞いた。
「いえ」
とだけ答えると、悠さんはほっとしたように少し頬を緩めた。
「一応言っとくけど、俺、未成年に手を出したことはないからな?ましてや弟にも手、出してねえよ?」
「ふふ。当たり前です」
真面目な顔の悠さんがおかしくて、思わず笑ってしまった。
「かわい」
悠さんが俺を見つめたまま、ぽつりとこぼした。
「え?」
何を言われたのか一瞬分からず、俺が咄嗟に聞き返すと、悠さんは答えずに立ち上がった。
「さて、そろそろ寝ようぜ」
「ちょっと、ごまかさないでくださいよ。今可愛いって言いましたよね」
悠さんはそれには答えず、俺の背中を押して階段へ向かう。
「さあさ、明日も仕事だぞ。さっさと寝ねーと寝坊するぜ」
「悠さん!これでも俺、女顔なの気にしてるんですからね!」
階段を上りきったところでくるりと後ろを向かされた。
悠さんは一段下で、珍しく俺の方がちょっと見下ろす形勢。
「ゆ、」
俺が口を開きかけたところで、悠さんが手を伸ばして俺の顔を下から掴んだ。
「自覚があるなら自重しやがれ!俺以外のやつの前であんな顔したら、なんか、なんか……駄目なんだからな!」
悠さんは少し顔を赤くして子供のようなワガママを言う。
「は、い」
悠さんの勢いに呑まれてやっとそれだけ返事をすると、悠さんは手を離してくれた。
「分かったんならいいけどよ……うん……あー、颯人の部屋はそこ、トイレは突き当たりだから。ゆっくり寝ろよ」
悠さんはそこで言葉を切って、照れくさそうに人差し指で頬をかいた。
「……その、おやすみ」
「おやすみなさい」
俺はまた微笑んでいたらしい。
「~~!」
悠さんは更に顔を赤くして、ばたんと自分の部屋に入ってしまった。
いや、だって。
照れたからって、頬赤らめてそっぽを向いた悠さんなんて、そっちの方が可愛いでしょ?
ふふ。
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