32 / 138
3-性的魅力とその弊害についての考察(11)
翌朝。
窓から太陽の光が差し込んできて目が覚めた。
目を閉じたまま温かい布団を引き寄せる。
森林系の澄んだ香りが微かにして気持ちいい。
……昨日寝る時こんな香りしたっけ?
……ていうか何?俺の上に乗っかってる重いものは。
目を開けるのが怖い。
俺はもう一度夢の世界に戻ることにして、掛け布団に潜り込んだ。
額がこつんと何かにあたった。
そう……例えば人の胸部みたいな。
あったかい。
夏が近いとは言え、朝晩はまだちょっと冷えるからな。
布団があったかいとなかなか出られない。
あ……眠くなってきた。もうちょっと寝られそう。
……しかし、俺の二度寝を邪魔する輩がいた。
「おいよ颯人。てめえ布団返せよ。背中がさみーんだけど」
聞こえない。聞こえない。
ずりっと掛け布団がベッドの右側に引っ張られた。
落っこちるだろ、という呟きと共に、俺の上に乗っていた重いもの(腕)が、ぐいと俺を抱き寄せる。
ということは?
そう、賢明なる読者諸君。君たちが考える通りだ。
「なんで悠さんがここにいるんですか」
「なんでだろーなー?……颯人が手を放してくれないからだろ」
そう言ってもぞっと布団の中から片手を引っ張り出す。
俺の右手が悠さんの手を握っていた。慌ててぱっと手を離す。
「え、なんで?」
「颯人、夜中のこと覚えてないのか?」
悠さんはそう言って指の背で俺の頬を撫でた。
ちょっと、恥ずかしいことするのやめてくれませんか。無自覚ですか?
悠さん曰く。
夜中にさ、急に目が覚めてトイレに行きたくなったから、颯人がいるこの部屋の前を通ってトイレに行こうとしたんだよ。
そしたら部屋のドアが少し開いてて、なんか声が聞こえるじゃねーか。
とりあえずトイレ行って、戻ってきたらまだ声がしてて。
どうも苦しそうに聞こえたから、部屋入ってみたんだよ。
颯人、だいぶうなされてたぜ?
あんまり辛そうだから、起こしてやった。
なんかぼんやりしてて目が覚めたのか怪しい感じだったけどな。
水飲ましてやったら落ち着いたみたいだったから、俺も部屋に戻ろうとしたら、颯人、お前が俺の手掴んで引き留めて、「ここで寝ればいいじゃないですか」って。
いやいやいや、いい歳してそりゃねーだろって思ったんだけど、颯人がどうしても手を放してくれないから、さ。
しょうがなく添い寝してやったって、ワ・ケ。
「冗談でしょう?」
俺は思わず悠さんに聞いた。
「冗談で添い寝するほど、俺は酔狂じゃないぜ」
くすくす笑いながら悠さんが言う。
「やー、俺を引き留めるときの颯人、必死で可愛かったぜ。お前に見せてやりたいくらい」
「忘れてください」
屈辱だ!
「だぁから可愛かったんだって。忘れちまうのはもったいないからヤダ」
「どうしたら忘れてくれますか」
「んー、あれ以上に可愛いとこ見せてくれたら忘れるかもな」
「そんなの恥の上塗りじゃないですか」
何やってるんだ夜中の俺。
確かに、嫌な夢を見たような記憶はある。内容は消えてしまったけれど。
でもその後は何だかほわっとあったかくて、安堵の中眠ったような……それが悠さんの添い寝か!
「別にいいじゃん。俺が他人に話すわけじゃなし」
ううん。悠さんを信じるしかない、よな。
一応念押ししておこう。
「……絶対に」
「うん?」
悠さんの腕の中から、端整な王子様フェイスを見上げる。
寝起きだし、必死だったから、何なら多少目が潤んでたかもしれない。
「絶対に二人だけの秘密にしておいてくださいね?」
「~~~っ!!」
みるみるうちに悠さんの頬が赤く染まっていった。
染まりきるのを見る前に、ばふっと掛け布団を頭からかぶせられた。
「ちょっと、なんで布団かぶせるんですか!」
「いいから!もう今ので上書きされたから!!出てくんな!」
「上書きって、何が?!出してください!」
「出てくんなってば!今ちょっと整えてるから!!」
「整えるって何をですか!布団の中暑いんですけど!早くしてください!」
そんなこんなで、最悪だったはずの一連の騒動は、どたばた喜劇で幕を閉じた。
これが悠さんなりの慰め方……な訳ないよな。ワガママ王子だし。
ともだちにシェアしよう!