37 / 138

4-ゆらぐな危険!(4)

ふと、視界の端で携帯電話の画面が明滅しているのが目に入った。 「あ、すみません。電話がかかってきたみたいです」 仕事用ではなく、プライベート用の携帯を取ると、廊下に出た。 画面に表示されているのは、『姉』の一文字。 「はい」 『あ、颯人?ちょっと頼みたいことがあるんだけど』 「なんですか?」 俺と二つ年の離れた姉の鏡花は、やはり音楽に関係する仕事に携わっている。 『明後日なんだけどさ、仕事休みだったりしない?光を一日預かってほしいんだけど。どう?』 明後日……休みのはずだ。 「大丈夫ですよ」 『ほんと!助かるわー。急に仕事が入っちゃって。じゃあ通り道だから、颯人の家に朝行くから!時間は後で連絡する』 「はい」 『よろしく!』 明後日とその次の日は休みの予定だ。 姉の息子の光はまだ五歳だが、パワフルな姉に似ず物静かで、あまりうるさくはしゃぐようなところもない。 一緒に図書館でも行ってみようか。 電話を切って部屋に戻った。 悠さんはまたピアノを弾いていた。さっきまでやっていた仕事も一段落ついたところだったし、ノートPCを抱えると二階の事務室へ降りた。 「けほっ、けほげほっ」 事務室へ入ったとたん、二宮さんが派手に咳をした。 「おい、大丈夫かー圭吾?風邪?」 山岡さんが心配そうに声を掛けている。 「朝は熱なかったんですけど、咳がひどくて……体も痛いし……。今日帰りに医者行ってきます」 「明後日コンサートですよぉ……咳はマズいです……。二宮さん、頑張って治してくださいね。あ、そうだ、この栄養ドリンク風邪に効くらしいです!あげます!」 「ありがとうございます……」 近江さんも気が気でない様子。 「帰りと言わず、今すぐ行ってきた方がいいんじゃないか?顔赤いぞ」 隣から二宮さんの顔を覗き込んで、後押しをするのは桧山さん。 「うぅ、早めに行った方がいいですかね……」 「行った方がいいって。明後日に響いたらそれこそ所長にどやされるぞ。ほら、所長見てる」 「ひっ!行ってきます!」 ガラス張りで見通しの良い所長室を恐る恐る見た二宮さんは、勢いよく立ち上がった。 「お気をつけて。お大事に」 すれ違いざまに俺は二宮さんに声を掛けた。 「はい!ありがとうございます!」 赤い顔をした二宮さんは所長に許可をとると急ぎ足で外に出て行った。 「あぁあ~~~!大丈夫かなぁ二宮さん……」 「明後日はどんなコンサートなんですか?」 勢いよく机に突っ伏した近江さんに聞いてみた。 「これですぅ……」 近江さんが引き出しから一枚のフライヤーを取り出して見せてくれた。 都内某所で行われるジョイントコンサートだ。 「一緒に出る方は、顔見知りの方なんですか?」 「ううん、今回初めてですぅ……。相手トロイメライさんなんで、負けないようにしたいんですけど……体調不良はどうにもなりませんからねぇ……」 かっくりと首を垂れる近江さん。 トロイメライというのは、業界でも有名な大手音楽事務所で、池田音楽事務所よりもずっと多数のアーティストを抱えている。 悠さんも過去に何度か組んでコンサートをやっているはずだ。

ともだちにシェアしよう!