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4-ゆらぐな危険!(9)
三十分後。
身支度を整えて、後は出かけるばかりだ。
あ、鏡花姉さんが置いて行ったバッグどうしようか。
中身を確認すると、光の着替えと寝間着、それから本が数冊入っていた。
どうせ車だし、持っていくか。
「光、お待たせ。準備できたから出かけるよ」
光は読んでいた本を閉じると大事そうに小脇に抱える。
玄関で靴を履いて、鍵を掛ける。
手を繋いで駐車場へ向かいながら、光は俺を見上げた。
「颯人お兄さんは、なんのおしごとをしてるんですか?」
「えーと、なぁ……」
マネージャー業って、子供に説明するのが難しいな。
光にも分かる言葉を使って、できるだけわかりやすく説明する。
「ピアノって知ってる?」
「はい。幼稚園にあります」
「あー、そうだね。ピアノを弾くお仕事をしてる人のお手伝いをしてるんだよ」
エレベーターを待ちながら、ない頭を捻って何とか言葉にした。
「たとえばどんなことをするんですか?」
「ピアノの演奏を聴きたい人を探したり、ピアノに合わせて歌を歌ってくれる人を見つけたり、かな」
「そうなんですか」
駐車場について、車のロックを解除する。
さてどうしよう。この後悠さんを迎えに行くわけだけど、光を後部座席に座らせるか、助手席にするか。
……どうせ悠さんのことだ。
光に会ったら構い倒すに違いない。諦めて後ろに一緒に座らせておこう。
「光、後ろに座って」
「はい」
光がシートベルトをしたのを確認して、駐車場を出た。
まずは悠さんのマンションに向かう。
光は黙って窓から外の景色を眺めている。
マンションの前に車を止めると、俺は光へ振り返った。
「人を迎えに行ってくるから、ちょっとの間待っててね」
「はい」
あー。なぜか少し気が重い。なんだろう。
三階について、一番奥の部屋。
インターホンを押すと、「開いてっから!」という悠さんの声がした。
玄関に入ると、悠さんはまだ支度中だった。
歯ブラシをくわえたまま、バッグに服を放り込んでいる。
悠さんと目が合うと、黙ってリビングを指さされた。
「座って待ってろ」ということだろう。
リビングに行って、いつものソファに腰かけること五分。
騒ぎが落ち着き、俺の前に準備のできたバッグがとんと置かれた。
「待たせた」
そういう悠さんの前髪は、なぜか上げてヘアピンで止められている。
「前髪どうしたんですか。やんちゃな高校生みたいになってますけど」
「これなあ……寝癖がひどくってさ。下手に弄るよりプロに任せた方がいいかと思って。応急処置」
「うつ伏せで寝てたんですか?額出してる悠さんも新鮮でいいですけど」
俺がそう言うと、悠さんは嬉しそうにした。
「お、好評か?」
「新鮮って言っただけです」
「素直に褒めろよー」
悠さんは笑顔で俺の頭をぽんと撫でた。
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