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4-ゆらぐな危険!(10)
部屋を出て車に向かいながら、顔を合わせる前に光のことを説明しておくことにした。
「悠さん、実は今日……」
「んー?」
「俺の甥っ子を預かってまして。一日事務所に居させるつもりです。悠さんはあまり顔を合わせないと思いますが……一応」
悠さんの動きが止まった。
「今、甥っつったか?」
「はい」
「何歳?中学生とか?」
期待しているのだろうか。予防線を張っている。
「いえ、五歳です。あ、でも大人しいんで騒いだりはしませんから」
「車のキー寄越せ」
「駄目です。いい大人なんですから、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかっての」
俄然早足で歩き始めた。
すぐに車の元へたどり着く。鍵を開けると、悠さんは後部座席を覗き込んだ。
屈んでちらりと見て、すぐに車の屋根に突っ伏した。
「何やってるんですか。早く乗ってくださいよ」
「いや……何あの子。颯人の隠し子?」
「姉の子です」
「颯人にそっくりじゃねーか……何この試練……颯人、俺を試してんの?」
また意味の分からないことを呟いている。
「遅れちゃうんで車出しますよ」
俺が運転席に乗り込んでエンジンをかけると、悠さんも覚悟を決めたのか座席についた。
事務所へ向けて走りながら、俺は光を促した。
「光、自己紹介できますね?」
「はい。……えと、榎原光です。今日はお世話になります」
おずおずと光が名乗る。
「光、光な。俺は小原悠。悠でいいよ」
「悠お兄さん、ですか?」
途端に、ヘッドレストに後頭部を打ち付ける鈍い音がした。
ルームミラーをちらりと見ると、悠さんが顔を両手で覆ったまま天井を仰いでいた。
なにやら聞き取れない声でぶつぶつ呟いている。
俺はため息をついて後ろに声をかけた。
「悠さん、しっかりしてください。さすがに光が困ってます」
「あの、僕何か変なこと言いましたか?ごめんなさい」
悠さんはがばっと通常の姿勢に戻ると、光ににっこり微笑みかけた。
「いや、大丈夫だよ。お兄さんて呼ばれ慣れてなかったからびっくりしちゃっただけ。ごめんな」
「えと、違う呼び方、した方がいいですか?」
「いやいやいや!そのまま悠お兄さんて呼んでほしいな」
「はい」
おそらく光がほっとして微笑んだのだろう。
悠さんがそっぽを向いて片手で口許を押さえている。頬はうっすら赤い。
……俺の時と同じ反応するんですね。
ほどなくして、車は事務所に着いた。
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