45 / 138
4-ゆらぐな危険!(12)
ぐずる悠さんを車に押し込んで、会場であるホテルへ向かう。
後部座席からは、じっとりとした空気が漂ってくる。
「まだ拗ねてるんですか、悠さん」
「べーつにー」
明らかに拗ねているセリフが返ってきた。
「あ、そーだ。昼飯どうすんの?」
「主催側が何か用意してくださるみたいですよ」
「主催ってホテルだろ?期待していいよな?」
「さあ……内容については聞いてませんから。ハードル上げない方がいいんじゃないですか?」
と、そんな会話を交わしつつ目的地に着き、控室へ通された。
「おい……どういうことだよコレは」
静かな怒りを湛えた悠さんの目の前には、小ぶりの仕出し弁当が二つ。
「暴れていいか?いいよな?」
「だめです。落ち着いてください。ちゃんとしたお弁当じゃないですか。何が不満なんです?」
「今日のフライヤー見ただろ。『美しい音楽と当ホテル自慢のフレンチをお楽しみください』。無論フルコースじゃあないんだろうが、せめて俺らにもプレートランチくらい食わしてくれても罪はねえと思わねえか?なんで俺らは弁当なんだよ。これじゃ、美しい音楽なんて期待されても困るぜ」
単に悠さんはフレンチを食べたかったらしい。
だからハードル上げない方がいいって言ったのに。
「でも、何か食べておかないと。演奏中にお腹が鳴ったらどうするんですか」
そう言って宥めると、悠さんは渋々頷いた。
「うー、ん。まあな、そうなんだけどな」
よし、うまく手懐けられそうだ。
「今はそのお弁当で我慢していただいて、終わったら悠さんが食べたいところに行きましょうよ、ね?光連れて」
途中までは不承不承聞いていた悠さんだったが、最後の一言でころりと落ちた。
「よし!採用。そうと決まったらさっさと食うぞ」
ソファに腰を下ろした悠さんは、ぱん、と手を合わせ「いただきます」割り箸を割った。
バッグから衣服を出してハンガーにかけながら振り返ると、上機嫌でちくわの天ぷらを齧っているところだった。
今日しか使えない手だが、光 の威力は絶大だな。
心の中のもやもやは見ないように蓋をした。
ともだちにシェアしよう!