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4-ゆらぐな危険!(12)

ぐずる悠さんを車に押し込んで、会場であるホテルへ向かう。 後部座席からは、じっとりとした空気が漂ってくる。 「まだ拗ねてるんですか、悠さん」 「べーつにー」 明らかに拗ねているセリフが返ってきた。 「あ、そーだ。昼飯どうすんの?」 「主催側が何か用意してくださるみたいですよ」 「主催ってホテルだろ?期待していいよな?」 「さあ……内容については聞いてませんから。ハードル上げない方がいいんじゃないですか?」 と、そんな会話を交わしつつ目的地に着き、控室へ通された。 「おい……どういうことだよコレは」 静かな怒りを湛えた悠さんの目の前には、小ぶりの仕出し弁当が二つ。 「暴れていいか?いいよな?」 「だめです。落ち着いてください。ちゃんとしたお弁当じゃないですか。何が不満なんです?」 「今日のフライヤー見ただろ。『美しい音楽と当ホテル自慢のフレンチをお楽しみください』。無論フルコースじゃあないんだろうが、せめて俺らにもプレートランチくらい食わしてくれても罪はねえと思わねえか?なんで俺らは弁当なんだよ。これじゃ、美しい音楽なんて期待されても困るぜ」 単に悠さんはフレンチを食べたかったらしい。 だからハードル上げない方がいいって言ったのに。 「でも、何か食べておかないと。演奏中にお腹が鳴ったらどうするんですか」 そう言って宥めると、悠さんは渋々頷いた。 「うー、ん。まあな、そうなんだけどな」 よし、うまく手懐けられそうだ。 「今はそのお弁当で我慢していただいて、終わったら悠さんが食べたいところに行きましょうよ、ね?光連れて」 途中までは不承不承聞いていた悠さんだったが、最後の一言でころりと落ちた。 「よし!採用。そうと決まったらさっさと食うぞ」 ソファに腰を下ろした悠さんは、ぱん、と手を合わせ「いただきます」割り箸を割った。 バッグから衣服を出してハンガーにかけながら振り返ると、上機嫌でちくわの天ぷらを齧っているところだった。 今日しか使えない手だが、(ショタ)の威力は絶大だな。 心の中のもやもやは見ないように蓋をした。

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