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4-ゆらぐな危険!(13)

会場は大ホールで、ピアノを囲むように扇形に客席が設えられていた。 観客の入りはお陰さまで大盛況。 皆、食べる手をつい止めてピアノとフルートの共演に聞き入っている。 司会はなく、悠さんが初めに挨拶を入れ、あとは演奏の合間に軽く曲の紹介をしている。 この手のイベントの度に思うのだが、悠さんは喋りも上手い。 客層に合わせて冗談を言ったり、曲の紹介を詳しく、または簡易にしたりと、細かく内容も変えている。 それに、観客の前で緊張したところも見せたことがない。 前にいるのが一般客だろうが審査員だろうがテレビカメラだろうが、悠さんの堂々たる態度は揺るがない。 羨ましい限りだ。 食事はデザートに、プログラムは最後の一曲になった。 「では最後に、また皆様にお会いできることを願って。ブルグミュラーの『25の練習曲』から『再会』です。すぐに再会できるように、短い曲にしておきますね」 一分強のごくシンプルな曲。アレンジで、フルートの透き通った音色がピアノに寄り添っては儚く消えていく。 最後の音が消えた後も、名残を惜しむように静寂のカーテンがふわりとひかれた。 しかしそれも一瞬で、割れんばかりの拍手が場を埋め尽くした。 悠さんが立ち上がり、相模さんに手を差し伸べて二人並んで正面に立つ。 ゆっくりと一礼すると、拍手喝采が大きくなった。 悠さんはその凛々しい王子様フェイスをほころばせ、にっこりと笑った。 ◇ ◇ ◇ 「おい!見てたか颯人!昨日の今日にしてはなかなかの出来だったろ?」 ホールを退出するや否や、悠さんは上機嫌で俺の肩を叩く。 「よかったです。ショパンのノクターンが特に冴えてました」 控室に戻る途中、先に戻ったはずの相模さんと清水さんに会った。 廊下の途中の休憩コーナーで、相模さんがぐったりしていて、呆れた様子の清水さんが扇いでいる。 「お疲れさまです!相模さん、どうかしました?」 悠さんが声をかけている。 俺はなんとなく事情が分かったので清水さんを見ると、苦笑いを返された。 「もうだめ……悠様が私の手をとって……あぁ無理……幸せ……」 「相模さーん?」 悠さんが寄っていって再度声をかけると、テーブルに突っ伏していた相模さんが、はっと体を起こして立ち上がった。 「悠様!ぜひまた次のイベントでもご一緒させてください!それまで私、もっともっと上達しておきますから!」 「そうですね。ぜひまた」 相模さんが差し出した右手をとって握手すると、悠さんは労うように笑みを浮かべた。 どうやら昨日のリハーサルよりは、相模さんへの評価が上がったらしい。

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