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4-ゆらぐな危険!(14)

悠さんに急かされながら主宰への挨拶もそこそこに事務所へ帰る。 何を急いでるのかって?そんなこと、悠さんに聞いてほしい。 俺は急がなくていいって言ったんだ。 「んー」 後部座席で足を組み、片膝を抱えた悠さんが何か悩んでいる。 「なあ颯人、何がいいと思う?」 「知りませんよ。悠さんが食べたいものを食べればいいじゃないですか」 昼食が仕出しの弁当だったことの埋め合わせに、何を食べに行くかで悩んでいるらしい。 「俺が食べたいのは、光が食べたいものなんだよ!」 「知りませんよ。光に聞いてください」 とは言え、五歳児が満漢全席を食べたいなんて言うわけもなく、たぶんそこらのファミレスで事足りるだろう。 もしファミレスに行くなら、俺はパフェが食べたい。 ようやく事務所に着いて、二階への階段を上る。 先を歩いていた悠さんが、ばぁんと勢いよく事務室のドアを開けると、すぐ前の席に座っていた近江さんが振り向いて唇に指をあててみせた。 「静かにしてくださいね。今光くんがお昼寝中ですから」 「なに、昼寝?!」 悠さんが食いつく。 「さっき寝ついたばっかりなんで、起こさないであげてくださいね」 悠さんが足音を殺して、応接スペースを覗きに行く。 覗いたとたん、かくっと膝が砕けたかと思うと、反対側のソファへ寝転がった。 どうやら、光の寝顔を見ながら自分も寝るつもりらしい。 昼飯リベンジはどうした。 俺のパフェ欲は高まるばかりなんだが、どうしてくれる。 デスクから膝掛けを取り出すと、応接スペースに歩み寄る。 丸くなって眠っている光に膝掛けをかけてやると、後ろからつつかれた。 悠さんが幸せそうな顔で光を見守っていて、俺が振り返ると『俺にも』と言うように指さしてきた。 なんだこの手のかかる二十三歳児は。 仕方なく一旦席に戻ると、脱いで椅子に掛けていた俺のジャケットを取ってきて、悠さんにかけてやった。 悠さんが満足至極な笑顔になる。 悠さんに小声で、『食べに行くのは中止ですか?』と囁きかけると、『延期』と返してきた。 仕方ない、チョコで我慢して仕事しよう。 来月は悠さんのリサイタルだ。 やらなきゃいけないことなら山ほどある。 デスクの上に積んだ封筒に、フライヤーとチケットを入れ封をする。 招待客リストから送り状のラベルを作成・印刷して、封筒に貼って出来上がり。 こういう地道な作業は音楽堂の時にもやっていた。この手の仕事はコツがある。 心頭滅却すること。考えることをやめ、一連の作業を完全にルーチンワークにして機械的にこなしていく。 そうしないと――ほら!余計なことを考えたら封筒を空のまま封をしてしまった。

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