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4-ゆらぐな危険!(15)

一時間あまりは封入封緘マシンと化していただろうか。 招待客への郵送物が出来上がったころ、光が目を覚ました。 「あ、おかえりなさい」 おかえりと言っている途中で、目の前の悠さんがぐっすり眠っていることに気づき、光は声を潜めた。 黙って笑顔で手を振ってやると、光が嬉しそうに駆け寄ってきた。 「あの、颯人お兄さん、僕さっきこの本読み終わったんです」 掲げてみせてくれた本は、どう見ても小学校高学年くらいが対象の推理小説だった。 「読めない字は理沙お姉さんに教えてもらいました」 「光くん、すごいですねー。こんな難しい本読んじゃうなんて」 近江さんも目を丸くしている。 「図書館の幼稚園児向けの本は全部読んでしまったので、お母さんが買ってくれたんです」 英語を勉強中の人がアガサ・クリスティーを原文で読むようなものだろうか。 恐らく鏡花姉さんとしては、読むのに時間をかけさせて本代を安く抑えようという魂胆だろう。 「じゃあ次の本をお母さんに買ってもらわないといけませんね」 「いえ、この本をもう一回読みます。今度は全部一人で!」 零れ落ちる笑顔で光が言った。 「んぁ。お、光起きたのか」 悠さんがむくりと起き上がっている。 「はい!おはようございます!」 「おはよ。なあ颯人、今日光はどうすんだ?泊まるの?迎えが来るの?」 悠さんが唐突なことを聞いてきた。 「私の家に泊めるつもりですよ」 「颯人んちってアパートだろ?寝る場所あんの?」 「光をベッドに寝かせて、私はソファで寝ようかと思ってますけど」 狭いが、一日くらい何とかなるだろう。 と思ったら、悠さんが案の定な提案をしてきた。 「二人でうち来いよ。客室のベッドはダブルだから余裕で寝れるだろ?」 「え、悪いですよ。そこまでしていただくわけには」 遠慮してみせたが、悠さんの下心は手に取るように分かっている。 もうちょっと光と遊んでいたいのだろう。 「いいんだよ、遠慮すんな!分かってんだろ?」 「はは。じゃあ、一晩お世話になります」 「おし!なあ光、晩飯何食いたい?」 悠さんが光と話し始めたので、俺は残った仕事を片付けよう。 「近江さん、私、郵便局に行ってきますね」 さっき作った封筒の束を見せて言うと、近江さんは頷いた。 「はい!お気をつけて!」

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