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4-ゆらぐな危険!(17)
ロッカーに置いていた着替えが役に立った。
こういう時のため……ではないが、あちらこちらに着替えを置くようにしている。
いつ、何が起きるか分からないからな……。
「着替え終わったか―?」
待ちきれない様子の悠さんが外から声をかけてくる。
「ちょっと待ってくださいね……」
ネクタイを締めて完了。びしょ濡れの衣類は持ち帰る。
「すみません、お待たせしました」
ロッカールームから出ると、悠さんが光の手を引いて待っていた。
「夕食はどこで食べるか決まったんですか?」
「おう!ファミレス行く」
予想通り。
「えーと、すみませんが私の着替えを取りに行きたいので、まず私の家に寄ってから悠さんの家に向かって、その道中でファミレスを探すというコースでいいですか?」
「おう!」
所長と近江さんに挨拶をして、三人で車に乗り込んだ。
光は当然悠さんの隣に。運転手は俺。
俺の家には道が空いているうちにさっさと向かい、さて次は夕飯だ。
「結局、何を食べることになったんですか?」
「ハンバーグとオムライスです!」
光が答えて、ね?と言う風に悠さんを見上げた。
「光がオムライスで、俺がハンバーグな」
「そうですか。それじゃ、あそこに見えてるお店で大丈夫そうですね」
「うん、いいんじゃね?」
店も早々に決まり、車を止める。
平日だからか、店内は思ったより空いていた。
席についてオーダーすると、なぜか席替えを要求された。
「俺と颯人、交代な。颯人は光の隣」
「はあ。いいですけど。何の意味が?」
「俺の満足度がアップする」
「意味が分かりません」
「じゃあ訊くな」
上機嫌の悠さんは片手で一掃する。
食事をしながら、ふと悠さんが訊いた。
「颯人の姉さんって、何やってる人なんだ?」
「ん、二胡奏者です」
「ニコソーシャ?」
聞きなれない言葉に、悠さんが首を傾げる。
「二胡です。中国楽器の」
「ああ!絃が二本のやつな!姉弟で音楽関係かよ。えー、じゃ、旦那は?」
これは光が答えた。
「お父さんは、海の向こうのずっと遠くに行ってるんです」
「え?」
「今度は夏になったら会えるってお母さんが言ってました」
「え、あ……」
悠さんがしまったと言うような顔をした。
「悠さん、大丈夫です。義兄さんは生きてます。クルーズ船の船長なんです。世界各地を周る船なので、滅多に会えないんです」
「なんだよ、もー。一瞬焦ったぜ」
ここでようやくメインが来た。
光はイチゴパフェ、俺はチョコレートパフェ。悠さんはコーヒー。
「並べて見ると、壮観だな」
悠さんが笑う。
「なあ光、俺にも一口ちょうだい」
「うーんと……このへんかなぁ……はい!」
器用に生クリームとアイスとイチゴをきれいに乗せて、光がスプーンを差し出す。
悠さんははくっと一口で食べた。
「うん、生クリームとか久しぶりに食べたけど、美味いな。はい次颯人」
「ええ?……はい」
ざっくりすくって差し出すと、悠さんにブーイングされた。
「ティラミス入ってねーじゃねーか。光みたいにちゃんとやれよー」
なんというワガママか。
仕方ないのでこれは自分で食べて、改めてすくい直した。
「これでいいでしょう?」
「よし。いただきます」
悠さんが楽しそうにスプーンを咥える。
「チョコアイスうめー」
そして口直しにコーヒー。
「うむ、満足である」
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