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5-泣かないで愛しいひと(5)

こっそり二人でどきどきしたり笑ったりしながら、二駅分の混雑を耐えて電車を降りた。 ちょっと栄えた住宅街といった趣の、比較的静かな駅前。 駅の向こうはタワーマンションが雨後の竹の子よろしく乱立している。 この辺は交通の便もいいだろうし、さぞかしお高いんだろうなあと思いながら悠さんの後を追う。 万年アパート暮らしの俺には縁のない話だ。 いや、別に給料が安いわけではない。働いた分はしっかり貰ってる。 ただ、それを家賃に費やすよりも、趣味に使った方がいいと思ってしまう質なだけで。 コンサートのチケット代ってなかなか馬鹿にならないんだよなあ。 聴きたい人になればなるほど高くなる。 そういう意味でも、悠さんのマネージャーになれて助かったと思ってる。 悠さんのコンサート、チケット取れない上にS席の値段といったら……。 もちろん舞台袖でしか聴けないけれど、給料もらった上に小原悠の生演奏がただで聴けるようになるなんて、一年前の自分に言っても信じないだろうな。 「颯人、おせぇ」 「今行きます」 いつの間にか悠さんがずいぶん先を歩いていた。振り返って待っていてくれている。 小走りで追いつくと、再び歩き出した。 小さなビルのエレベーターに乗って二階へ。 エレベーターを降りると目の前に店の入り口があった。 中に入ると、小ぢんまりした雰囲気で鉄板付きのテーブルがいくつか並んでいる。 レジ横で駄菓子を売っていたり、昭和レトロなポスターが貼ってあったりして、昔懐かしいと言いたくなるような空気が漂っている。 店の中央は座敷になっていて、そこにも広めのテーブルが二つあった。 既に片方は男性の二人組で埋まっている。 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」 「二人。座敷いい?」 「あ、はい。どうぞー。二名様ご来店でーす」 「いらっしゃいませー!」 悠さんが店員とやり取りして、その中央の席についた。 靴を脱いで座敷に上がる。掘りごたつ式なのが楽で嬉しい。 「悠さん、よくこんなところのお店知ってますね」 「んー。高校から近かったんだよ。安いからたまに友達と来てた」 「思い出のお店ですね」 「大した思い出はねぇけどな。お好み食うより早く帰ってよーこー先生とピアノ弾きたかったことしか覚えてねぇ」 いかにも悠さんらしい。 ちなみに、よーこー先生というのは、悠さんの師だった白峰洋行のことだと思う。 「ご注文お決まりでしたらおうかがいしまーす」 お冷やを持ってきた店員さんが伝票を持って控える。 「とりあえず豚玉とイカ玉」 「かしこまりましたー」 メニューも見ずに悠さんが注文する。 俺はジャケットを脱いでバッグの上に掛けた。 「悠さん、今日は一日作曲してたんですか?」 「そだな。しばらくコンサートねぇから練習しなきゃいけない曲もねぇし。気分転換してた」 悠さんは後ろの畳に手をついて寛いだ姿勢をとる。 「できたらまた聴かせてくださいね」 「いいもん出来たらな」 「悠さんなら出来ますよ」

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