鉄板の上で、お好み焼き二枚が焼けつつある。 待ってる時間がもどかしい。 「あふっ！あふいれふよ、槙野さん！」 隣のテーブルの若い男が、お好み焼きを頬張って何か言っている。 「急いで食べるからだろ。猫舌なんだからゆっくり食べろよ神崎」 「……あー、火傷したぁ」 皿の上のアツアツのお好み焼きはいかにも美味しそうだ。 こっちのが焼けるのが待ち遠しい。 「もうひっくり返していいですかね？」 「腹減ってんのか？もうちょっと待て」 「お好み焼き自分で焼いて食べるの久しぶりです」 「焼いてもらうのも楽でいいけどな。自分で焼くのも楽しいよな」 「ですねー」 「……よし颯人、ひっくり返せ」 「っはい！」 おぼつかない手つきでイカ玉をひっくり返す。 端が折れてしまったのでそこだけごにょごにょしてごまかした。 豚玉はうまくひっくり返せた。 「おい颯人、今失敗したな？」 「リカバリしたから大丈夫です」 「意外と大雑把だな。普段スケジュールはきっちりみっちり詰めこんでくるくせに」 「仕事があるのはいいことですよ」 「俺様に仕事がなくなるわけがないだろ」 整えた片眉を上げて、心外だな、とでも言いたそうな顔をする。 「常にトップを走るのも辛いじゃないですか」 「ふふん。俺様にできないとでも？老衰で大往生するまで最前線で弾いてやるよ」 「言いましたね？見てますからね？」 「おう、見てろよ。うーん颯人、そろそろ上げろ」 焼き上がった二枚のお好み焼きを半分に切ってそれぞれ皿の上に引き上げる。 ソース、鰹節、マヨネーズをかけて、火傷に気をつけながら頬張る。 反面教師が隣にいたからな。 十分冷ましたつもりが、まだ意外と熱い。でも美味しい。 「美味しいですね」 「だろ？変わってねぇなー」 悠さんが懐かしむような顔をした。と思ったら手を挙げた。 「生中！颯人は？」 「いただきます」 「生二つで！」 「かしこまりました！」 威勢よく店員さんが受け応える。 「成人してから来るの初めてだから忘れてたわ。そろそろビールが美味い時期だよな。……あ、颯人は飲み過ぎんなよ」 なぜか悠さんにくぎを刺された。 「何でですか？」 「この間の打ち上げで飲まされまくって色気ダダ漏れになってたろ」 「っふ、なんですかそれ。私が色気？」 「自覚ねぇのかよ！陰で、次回も飲ませようって企まれてたぞ。気をつけろよ」 「いつの打ち上げですか？」 「先月のコンサートだよ。あの曲目アンケート取ったやつ」 「ああ……。やたら注がれた時ですね。でも別に私普通でしたよ」 「嘘こけ！飲んでない奴らまで顔赤くしてたぞ」 そんな目で見られてたかな……。なんせ次から次に注がれたもんで、よく覚えてない。 「次注文しようぜ。何がいい？」 悠さんがメニューを渡してきた。 具材を好きに選べるらしい。 「うーん、紅ショウガと豚のMIXが食べたいです」 「おし、じゃあそれとチーズな」 次が焼けるまでしばし間が空く。 ふと顔を上げたら、悠さんの隣の席の客と目が合って、なんとなく会釈した。 色白で、大理石の彫刻のような整って美しい顔立ちだが、斜めに流した長めの前髪が色っぽい。 色気ダダ漏れって、こういう感じなのかなーとぼんやり思っていたら、携帯が震えた。 『何余所見してんだよ。浮気か？』 悠さんが携帯片手に面白くなさそうな顔をしている。 『違いますよ！色っぽい男ってああいう人のこと言うのかなって思って見てたんです』 悠さんが隣をチラ見する。 『まあまあ美形だけど颯人の方がエロかった』 「ちょっと、何言ってんですか」 思わず声に出した。 「だって事実だぞ。今度やったら動画撮っといてやるよ。でもできれば飲みすぎるなよ。仕事なのは分かってるけどさ」 「覚えておきます」