60 / 138
5-泣かないで愛しいひと(7)
二回目のお好み焼きを焼いていると、店の入り口が開いて新たに客が入ってきた。
「いらっしゃいませー、二名様ですか?」
「はー……ぃ、悠!悠じゃん!!」
知り合いが来たようだ。
悠さんは早くもうんざり顔をしている。
「ちょっと幸、止まってないで早く入れよ。あ!悠!」
「あそこの席行くんでだいじょぶです!」
「かしこまりました!」
悠さんがため息をついた。
「悪い颯人、うるさくなる」
「お知り合いですか?」
「弟」
悠さんが言うや否や、ブレザーの制服を若干着崩した男子高校生が二人駆け寄ってきた。
「ゆーうー!!何で最近家帰って来てくんないんだよ!寂しいじゃん!」
「久しぶりの悠だ!悠ー!!」
悠さんに両脇からべったりしがみついている。よく見ると二人とも顔がそっくりだ。
もちろん悠さんにも似てる。悠さんが高校生の頃ってこんな感じだったのか。
モテてそうだな。
「お前らうるさい。騒ぐなら別の席行け。他人のフリすっから」
悠さんが二人の頭をひっぱたいた。
「ごめんなさい。大人しくするから一緒に食べよ?っていうかこちらの人は誰?」
まじまじと見られる。似た顔三つが並んでいて、居心地が悪い。
「颯人。マネージャー」
「山岡さんは?」
「大喧嘩して担当替わった」
「ふーん」
すると見定めるような顔で二人に見つめられた。
「おい創、どこに座るんだよ」
「え、あ、俺悠の隣」
大声で異議を唱えようとした弟の口を悠さんがおさえた。
「やめろ。颯人が俺の隣来い。お前ら二人はあっち」
そういうわけで、俺は悠さんの隣に移動し、向かいに兄弟が並んで座った。
「えーと、左が次男の創 で、右が三男の幸 」
ぱっと見がそっくりで見分けがつかない。
そう言うと、
「創の方がちょっと目が丸い」
なかなか難しい見分け方を教えてくれた。
「んで、こっちが俺のマネージャーの颯人。越野さんって呼べ」
「「初めまして越野さん」」
「ど、どうも初めまして。よろしくお願いします」
さすが双子。驚異のシンクロ率だ。思わずどもってしまった。
「で、越野さんは悠のことどう思ってるんですか」
幸くんがいきなり真剣な顔で聞いてきた。
「ゆ、うさんですか?素晴らしいピアニストだと思います」
「そうじゃなくて。男として」
ちょっと答えに困る質問が来た。どこまで言っていいものかと思わず悠さんを見ると、とめてくれた。
「お前ら馬鹿なこと訊いてんじゃねぇ。奢ってやるから大人しくしてろ」
「奢り!うい!」
素直に引き下がってくれて、こっそり胸から手を撫でおろした。
ともだちにシェアしよう!