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5-泣かないで愛しいひと(7)

二回目のお好み焼きを焼いていると、店の入り口が開いて新たに客が入ってきた。 「いらっしゃいませー、二名様ですか?」 「はー……ぃ、悠!悠じゃん!!」 知り合いが来たようだ。 悠さんは早くもうんざり顔をしている。 「ちょっと幸、止まってないで早く入れよ。あ!悠!」 「あそこの席行くんでだいじょぶです!」 「かしこまりました!」 悠さんがため息をついた。 「悪い颯人、うるさくなる」 「お知り合いですか?」 「弟」 悠さんが言うや否や、ブレザーの制服を若干着崩した男子高校生が二人駆け寄ってきた。 「ゆーうー!!何で最近家帰って来てくんないんだよ!寂しいじゃん!」 「久しぶりの悠だ!悠ー!!」 悠さんに両脇からべったりしがみついている。よく見ると二人とも顔がそっくりだ。 もちろん悠さんにも似てる。悠さんが高校生の頃ってこんな感じだったのか。 モテてそうだな。 「お前らうるさい。騒ぐなら別の席行け。他人のフリすっから」 悠さんが二人の頭をひっぱたいた。 「ごめんなさい。大人しくするから一緒に食べよ?っていうかこちらの人は誰?」 まじまじと見られる。似た顔三つが並んでいて、居心地が悪い。 「颯人。マネージャー」 「山岡さんは?」 「大喧嘩して担当替わった」 「ふーん」 すると見定めるような顔で二人に見つめられた。 「おい創、どこに座るんだよ」 「え、あ、俺悠の隣」 大声で異議を唱えようとした弟の口を悠さんがおさえた。 「やめろ。颯人が俺の隣来い。お前ら二人はあっち」 そういうわけで、俺は悠さんの隣に移動し、向かいに兄弟が並んで座った。 「えーと、左が次男の(そう)で、右が三男の(こう)」 ぱっと見がそっくりで見分けがつかない。 そう言うと、 「創の方がちょっと目が丸い」 なかなか難しい見分け方を教えてくれた。 「んで、こっちが俺のマネージャーの颯人。越野さんって呼べ」 「「初めまして越野さん」」 「ど、どうも初めまして。よろしくお願いします」 さすが双子。驚異のシンクロ率だ。思わずどもってしまった。 「で、越野さんは悠のことどう思ってるんですか」 幸くんがいきなり真剣な顔で聞いてきた。 「ゆ、うさんですか?素晴らしいピアニストだと思います」 「そうじゃなくて。男として」 ちょっと答えに困る質問が来た。どこまで言っていいものかと思わず悠さんを見ると、とめてくれた。 「お前ら馬鹿なこと訊いてんじゃねぇ。奢ってやるから大人しくしてろ」 「奢り!うい!」 素直に引き下がってくれて、こっそり胸から手を撫でおろした。

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